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2025.01.30

身体の健康づくりのために、通勤・通学の「移動場面」に注目しよう

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アクティブ・トランスポートのための環境づくり

 とはいえ、楽に移動したいというのは、ある種、人間の本能のような気もします。「運動は健康によい」と皆が理解しているにもかかわらず、習慣的に体を動かすのはハードルが高いと感じている人は少なくないのではないでしょうか。

 一般的に「運動」と聞くと、スポーツやランニングなどを思い浮かべると思いますが、専門的には「運動」は身体活動の一部です。身体活動は、安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての動作のことを指します。ようは、スポーツが苦手だったり、本格的な運動のための時間がとれなくても、運動以外の身体活動に励むことで健康に一歩ずつ近づけるのです。

 たとえば身体活動のうち、日常生活における労働、家事、通勤・通学などのことを「生活活動」といいます。先ほども触れましたが、通勤・通学で徒歩の場面を増やしたり、自転車を利用したりするだけで、身体活動の時間を増加させることができます。

 では、実際に1日にどれだけ動けば、健康づくりに役立つのでしょうか。

 厚生労働省が発表している「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人の場合、「歩行又はそれと同等以上の身体活動を1日60分以上」行うことが推奨されています。歩数にすると「1日8000歩以上」とされており、距離に換算すると約6.1kmになります。

 他方で、厚生労働省の令和4年「国民健康・栄養調査」によると、「20歳以上の歩数の平均値は男性で6,465歩、女性で5,820歩」となっています。とくにデスクワーク中心の社会人は、意識して歩かないと1日8000歩を達成できないかもしれません。

 また、WHO(世界保健機構)が公表しているガイドラインでは、18歳から64歳の成人の場合、1週間のうち「中強度の有酸素性の身体活動を最低150~300分」または「高強度の有酸素性の身体活動を最低75~150分」(あるいはその組み合わせ)が推奨されています。

 このWHOの基準に満たない状態は「身体不活動」と呼ばれます。身体不活動は個人の責任と考えるかもしれませんが、決してそうではありません。例えば、勤労者であれば日中は仕事がある以上、多くの場合、就労時間内に身体活動量を増やすことは難しいです。

 その他、目的地の一駅前で降りて歩きましょう、というのも大都市の中心部であれば現実味があるメッセージかもしれませんが、地方で考えると非現実的です。このように、身体活動には社会的な環境や地理的環境が影響し、個人の努力だけではどうにもならないこともあるため、身体不活動は社会全体で考えていくべき課題ですが、多くの場合で個人の責任論に帰結している印象を受けます。

 その意味においてもやはり、身体活動は街の環境づくりと深く関係していると言えます。先ほどの自転車の例でいえば、そもそも車の交通量が多い道路を自転車で移動するのはなかなか難しいという問題があります。スムーズで安全な移動には自転車レーンがあることが望ましいですし、また、都市部であれば駐輪場が完備されていないと、通勤・通学は難しいという事情もあります。徒歩についても同様で、安心して歩ける道があった方が良いのは言うまでもありません。

 そうしたことも含めて、環境づくりはもっと重視されるべきと思います。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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