誰もが何かをなくす痛みを伴わずに、自分らしく生きられる世の中へ
同性同士の結婚に関しては、人権問題として法的整備が必要な時期にきていると思います。
デンマークで1989年、世界で初めて、結婚とほぼ同じ権利が認められる「登録パートナーシップ法」がつくられました。1999年には、フランスで「PACS」と呼ばれる異性間または同性間における婚姻に準じたパートナーシップ制度が成立。2001年にはオランダで法的に家族とする同性婚が認められ、2017年にはドイツでも同性婚法ができるなど、現在、世界36の国・地域で何らかの立法化がされています。
日本では国の法律はありません。自治体レベルでは、2015年に東京の渋谷区と世田谷区で、自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め、証明書を発行する「パートナーシップ制度」をつくりました。現在では380を超える自治体で制度がつくられ、全人口に対するカバー率は75%を超えているということですから、心強いことです。ただ、こういった自治体による制度も、「法律の範囲内」(憲法94条)という制約があり、法律に反する戸籍の取り扱いなどはできず、婚姻関係とまったく同じ権利を得られるわけではありません。
もっとも、パートナーシップ制度のようなサブシステムをつくることによって問題に取り組む上での風通しが良くなり、現行の法制度で困っている人たちの人権保障に資する部分はあるので、制度化の促進については、みんなで考え、広げていくべき問題だと思います。
性別変更の問題に限らず、愛する人と幸せに生きていくために、何かを引き換えに失うのは嫌ですよね。何かを失う痛みを伴わずに、自分らしい人生を送ることが、人間にとって一番望ましい生き方です。サブシステムの保障を広げ、少しずつでも立法化につなげていくことが、一人ひとりの個人の尊重のための一つの筋道にもなるでしょう。
2024年度から使われる小中学校の倫理や保健体育の教科書では、各出版社がLGBTQ問題に配慮した記載を入れてきています。これからは大人より子どものほうがこの問題について深く理解している、そんな状況になる可能性が十分にありえます。世の中には様々な人がいることを理解し、配慮のできる子どもたちが大人になり、社会全体がより良く変わっていくことにも期待したいところです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。