コロナ禍を良いきっかけにするために
先にも述べたように、このコロナ禍の経済政策に対する評価を行うには、まだ時間が必要です。
例えば、強いロックダウン政策をとったイギリスなどは、GDPの減少が約10%になっているのに比べ、言わば緩いロックダウン政策だった日本は5%の減少で済んでいます。しかし、このあとの各国の回復がどうなるのかは、追跡していかなければならないところです。
逆に、全国民に一律10万円を給付した日本の施策は、果たしてどのような効果があったのか。実は、給付後、銀行の預金額が大幅に増加しているのです。
もちろん、10万円を生活費に充てた人も多いと思いますが、消費がしづらい当時の状況では、全国民に一律給付することの意味はどれほどあったのか、やはり、検証が必要です。
また、このような大規模な財政出動を行ったことによる政府債務の膨張を、どのようにファイナンスしていくのか。結局は、将来世代に負担をかけただけということになりかねません。
パンデミックは頻繁に起こる災害ではありませんが、また、必ず訪れる災害であるとも言えます。そのときのためにも、今回のコロナ禍に起きた現象や経済政策を検証し、その知見を残すことは、私たちが絶対にやらなければならない課題だと考えています。
一方で、コロナ禍は社会変革を進めるきっかけにもなったと思っています。
例えば、リモートワークは、生産性を高める働き方のひとつとして以前から推奨されていましたが、なかなか普及しませんでした。それが普及し、活用の仕方もどんどん向上したと思います。
今後も労働力の減少が続く日本にとって、こうした技術を活用することは重要になってきます。その意味では、良いきっかけになったと言えます。
また、経済成長の点から見ると、今後の成長が難しいセクターが淘汰され、新しいビジネスが台頭するきっかけにもなったと思います。
実際、給付金を受けたものの返済が難しいという会社も多いと言います。どこまで支援を続けるのかはとても難しい判断ですが、経済成長のトレンドやサイクルの原理を基に判断することも必要だと思います。
また、市民の皆さんもパンデミックという特殊な状況下で、様々な体験があったと思います。多角的な視点からの報道に触れたこともそのひとつではないでしょうか。
例えば、ロックダウンひとつでも、単純に是か非かを主張したり、自分の立場だけで判断するのではなく、様々な立場、様々な視点をもつ人の意見を聞きながら考えるということを、ひとりひとりができるようになれば、それは、豊かで成熟した社会の形成に繋がっていくと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。