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人口減少は経済成長を促す要因にもなりうる

飯田 泰之 飯田 泰之 明治大学 政治経済学部 教授

歴史を見ても、人手不足が技術進歩を促進させる

 人手不足によって技術進歩を加速させた経験を、日本はすでにもっています。典型的なのは、1980年代のFA化(ファクトリー・オートメーション)です。当時、日本の経済の規模はかなり大きくなり、海外展開をするようになってきましたが、団塊の世代とそのジュニア世代の狭間で、若い労働人口が減少した時期でした。人件費の高騰対策と、人手不足を補うために、日本各地の工場は一斉に無人化に取組み始め、日本の工場の自動化技術は大きく発展しました。工場が無人化を目指すことで工作機械メーカーが潤い、研究開発に積極的に投資する余裕が生まれ、その結果、さらに優れた技術開発が促進するという好循環が生じたのです。こうした例は日本に限りません。産業革命を起こしたイギリスも、当時は世界中に植民地を展開し、市場を拡大させていく中で、生産力を上げるためには人手不足となったことが、工場機械工業を設立させた要因のひとつだとする研究もあります。

 日本のFA化の技術進歩は1990年代のなかばくらいまで続き、世界的に見ても、日本のロボット技術の優位は明確でした。しかし、バブル経済がはじけ景気が下降するとともに、人手が余剰傾向になってくると、企業は低賃金で働き手を集めることができるようになり、このような省力化投資に消極的になりました。その結果、機械技術開発にお金が回らなくなり、ロボティクス部門技術進歩は停滞するようになったのです。近年の技術進歩の一番大きな波はAI(人工知能)とロボティクスですが、見方によっては、日本はアメリカやドイツに対して、後れを取っている分野が多いといわれるようになっています。しかし、労働人口の減少によって人手不足が深刻になってくると、AIとロボティクスの技術で、様々なルーティンを回す仕組み作りを考えていかなければなりません。そのときに技術進歩は大きく進展するはずです。

 ハード面の技術進歩と並行して、ソフト面の技術進歩も非常に重要です。そもそも日本に限らず先進国では、サービス業が7割以上を占め、商品そのものにも増して、サービスの部分によって商品の優位性を築くことが多くなっています。例えば、店舗運営にAIやロボットを活用するとき、それを顧客サービスとして上手に使いこなすには、企業のワークフロー改革が必要です。このような「慣れ」や「工夫」は研究室で見つけられるものではありません。現場でトライ・アンド・エラーを延々と繰り返す中で見つけていくものです。このような活動によってAI・ロボティクス技術そのものではなく、それを活用する知恵が集積されます。こうして集積された知恵は、ハードな技術そのもの以上に重要なこともあるでしょう。人口減少は日本だけではなく、世界が直面する問題です。その対応として日本のAI・ロボット活用方法を世界に売り込んでいくとき、この知恵を基にしたマニュアルを持っていれば、技術と合わせたパッケージ商品として優位に立つことができるでしょう。ソフトは、非常に大きな競争力の源泉となるのです。

 このように、成長会計の手法で経済成長の要因を分析すると、労働力の減少によるマイナスはあるものの、その労働力の減少によって起こる技術進歩は、労働力の減少によるマイナスを補って余りある効果を生み出す可能性があるのです。

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