農作物が輸入できなくなることを前提に農業を考える
実は、内モンゴルの農家では、家畜の飼育に労働力を充てている農家が多いのです。
その背景には、まず、かつての農家は貧しかったことと、家畜は役畜にもなったため、農作業機械の導入が進まなかったことがあります。しかし、少し余裕のできた農家が大型機械を導入すると、周りの農家は重労働の農作業を委託するようになります。
すると、機械を持った農家は作業料が得られ、作業を委託した農家は、労働力を家畜の飼育に充てられるようになったわけです。
こうした分業制が可能になった背景には、村民委員会の管理の下に開墾が進んで耕地が広がり、経営規模が広がったことがあります。それによって、大型機械を効率良く使い回すことができるようになったのです。
一方、日本では、各農家が先祖伝来の所有地に縛られて経営規模が広がらないために、せっかく持続可能な農業の知恵がありながら、そのサイクルを実行する余力がなく、結局は、その知恵が活かされなくなっているのです。
そこで、私は、各農家が個別に頑張るのではなく、地域レベルで連携し、分業化する企画を立てています。そこでも、土地の個人所有という形態がネックになっていますが、内モンゴルの農業を見れば、どちらが持続可能かわかるはずです。
これが、日本農業の大きな課題の一つであります。また、近年の世界情勢を見るまでもなく、食糧は大きなリスクになっているからです。
人の活動によって排出された温室効果ガスによる気候変動によって、さらに、戦争や戦乱によって、農作物の生産が打撃を受けています。一方で、世界の人口は増加していて食料の需要は高まっているので、農作物の価格はどんどん上昇しているのです。
例えば、2021年において、日本は、トウモロコシを年間1600万トン近く輸入していますが、中国は、国内で2億7000万トン以上生産し、それでも足りずに3000万トン近く輸入しています。世界的にトウモロコシが不作になれば価格が上昇するのみならず、日本は手に入れることもできなくなる可能性があります。
日本が輸入するトウモロコシの多くは濃厚飼料になります。つまり、トウモロコシの価格が上昇したり、手に入らなくなることは、畜産業に影響を及ぼし、すると、それらを原材料にしている加工品にも影響が出るわけです。
このことは、トウモロコシに限ったことではなく、様々な農作物にも当てはまることなのです。つまり、自給できる、持続可能な農業を確立していくことは、大きな課題であり、喫緊の課題でもあると言えます。
例えば、農業の後継ぎがいないために耕作放棄地になっている土地などは、その家の問題というだけでなく、地域全体、日本全体の問題として捉え、なんらかの施策を立てることが必要です。その意味でも、地域レベルの連携は重要なテーマになると考えています。
都会の消費者の皆さんも、できれば、定期的に、農業体験のできる農園に行ったり、田舎に行って農作業を手伝うなどして、体験していただければ、と思います。
消費者の立場だと、スーパーで野菜などを買うとき、どうしても、安くて形の良いものを選びがちですが、農作業を知っていると、安い野菜には、安い理由があることが理解できるようになると思います。
その理由とは、例えば、農薬などを多く使って人手を省いているからかもしれません。あるいは、味も栄養も同じなのに形が悪いからかもしれません。
そうしたことが理解できてくると、本当に良い野菜を美味しく無駄なく食べられるようになっていくのではないでしょうか。
いま、円安で、外国産と国内産の農作物の価格差が縮まっています。この機会に、国内産に注目してみてください。
多くの消費者が注目することで、国内の農業は活性化されると思います。それが、日本の農業の問題をあらためて考えるきっかけにもなっていくはずですし、それが、私たちが安定的に食料を得られることにも繋がっていくと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。