いま、トランプ大統領が行っているのは支持者を喜ばすこと
また一方で、トランプ政権の誕生はアメリカ国民の経済格差による分断を象徴するものでもあります。日本では反トランプの動きが大きく報道されますが、それは、日本のメディアが会ったり、付き合うアメリカ人は、都市部に住み、ある程度の教育を受け、所得も高い人たちだからです。中西部の州で、工場の撤退などにともなって失業したり、低賃金で働かざるを得ない人たちにとっては、世界の歴史の流れや多様性など、まったく意味がありません。カツカツの週給で働き、いつ首を切られるかわからない彼らにとっては、きらびやかなハリウッドのスターが反トランプを訴えることにすら、苛立ちや怒りがあるのです。実は、20世紀後半はアメリカの歴史上まれにみるほど国民に一体感のある状態であったとともに、世界大戦で疲弊したヨーロッパや日本に比べ、アメリカは相対的に最も余裕があり、力のある時代でもありました。ところが、いまのアメリカにはそんな余裕はありません。祖父や父は豊かな生活をしていたのに、自分はどんどん貧しい生活になっていく。それがアメリカの労働者たちの本音であり、実状なのです。そういう状態の人たちは、クリントンではなくトランプを大統領にするほど、アメリカ全土にたくさんいたのです。
いま、トランプ大統領は選挙公約を守り、こうした自分の支持者たちを喜ばすことに懸命になっています。日本に対しても、為替を操作しているとか、TPPから離脱し2国間協議をするなどと言っていますが、いまの段階ですべてを真に受けて反応する必要はないでしょう。戦略的に発言しているというよりは、支持者向けのスピーチと考えられます。日本の為替操作発言には根拠がないし、TPPには対中国戦略という重要な意図があるので、内容はそのままに名称を変えた形で交渉が復活する可能性があります。いま日本としては、実際の交渉に備えた準備をしておくことが重要でしょう。
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