伝統文化を知る入り口を提供することが重要
現代では、こうした芸術の連関を生み、楽しむ文化が先細ってきています。しかし、それは、文化の変容パターンのひとつであり、自然な現象であるとも言えます。
危惧するのは、その背景にあるのが、物質的な豊かさに支えられ、目の前にあるものの刺激性を短絡的に楽しむという風潮です。そうした一瞬の面白さを求め続けることは、決して持続することではありません。
こうしたことも、先に述べたように、実学偏重による、効率性やわかりやすさ、役立つことを重視する流れによって生み出されているように思えます。
グローバル経済が広がる現代では、実学偏重によって人材を育てないと競争に勝てない、という捉え方があるのかもしれません。
しかし、グローバル化が進む中で、真に重要になってくるのは替えの効かない独自性です。だとすれば、日本の伝統文化を生み出してきたプロセスをあらためて見直すことは非常に重要です。
海外の文化を取り入れてはアレンジし、独自のものを生み出すやり方。そして、生み出したものを豊かな発想力で連関させ、様々な表現や創造に連ねる積み重ね。
そこには、目の前のものを短絡的に、即物的に受け入れることとは真逆のプロセスがあります。それを、先細りさせるのではなく、見直し、再評価することも大切なのではないでしょうか。
すると、日本の伝統文化を楽しむとは、教養や安らぎだけで終わるのではなく、そこに替えの効かない価値を見出しますし、また、それは新たな価値を生んでいくものにもなると考えます。
例えば、源氏物語を観光資源にして栄える地域があります。物語性をもつ神社仏閣ほど人が集まります。それは、文学や美術、歴史が人の想像力を刺激し、物語が生まれ、それが、その場所と連関しているからです。
世界中から見れば、日本は、そうした替えの効かない日本らしさが豊富に残っている国です。その根源を先細りさせてしまっては、グローバル社会で日本のプレゼンスも先細っていくのではないでしょうか。
一方で、効率性やわかりやすさ、役立つかどうかを重視する価値観の中で育ち、本学に入学してきた学生に、平安時代の文化や、そこにあるイデアと言えるような理想型の美しさといったものを伝えていくと、興味を寄せる学生が思った以上に多くいます。
それは、彼らにとっては新鮮な情報、コンテンツだからなのだと思います。
そのことは、目の前の損得勘定だけがすべてではないこと、広がりのある発想力、想像力のある世界を知るきっかけや入り口を伝えるコンテンツを、私たち大人が若い世代にもっと提供していくことが重要であることを教えてくれます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。