ICTを有効に活用すれば、組織コミュニケーションが改善され、テレワーク状況でも組織コミットメントは向上する
分析の結果、テレワークによる仕事の量(時間)は、すべての組織コミットメントと有意な関係がありませんでした。このことは、テレワークの導入自体は、従業員の組織コミットメントを高めるわけでも、低下させるわけでもないことを示唆しています。一方、ICTの活用は、上司・リーダーや組織トップからのダウンワード(下方向)の情報伝達に有効で、部署・チーム内のオープンコミュニケーション風土の醸成にも寄与することが示唆されました。そして、ICT の効果的活用によって、組織(トップ)および上司・リーダーから十分な情報伝達が促される場合や、組織や部署のオープンコミュニケーション風土を醸成する場合、従業員の組織コミットメントは上昇することが示唆されました。そして、これらのICTの有効活用は、組織コミットメントに対して直接的な影響がほとんどなかった(あってもわずかな程度)ことから、上記の組織コミュニケーションの改善を通して、ICT の有効活用は組織コミットメントの上昇に間接的に役立つようです。
組織コミュニケーションは、情緒的コミットメントと規範的コミットメントに対しては、ほぼ同程度に、やや強くプラス面に作用していました。オープンコミュニケーション風土や組織の上から下へ情報共有を積極的に行おうという姿勢は、従業員が自分は組織や部署・チームに受け入れられているのだという認識を持たせることにつながると考えられます。それによって、組織への愛着や恩義や忠誠心に基づく彼らの組織とのつながりの意識は強くなるのかもしれません。
継続的コミットメントに対しては、これらのコミュニケーションは情緒的および規範的コミットメントに対してほど強く作用しないという結果が出ました。それでも多少はプラス面に作用したのは、組織コミュニケーションが良い状況にあり、自分の意見が言いやすいとか、自分の存在が認められていることを認識すれば、その人は他の組織と比べれば現在の組織の方が良く思えるという、消極的ではあれ組織との関係維持に作用するからだと考えられます。
テレワークの導入によって、日本人社員の組織コミットメントが低下したのではないかという懸念は杞憂にすぎず、テレワークそのものは、組織コミットメントを改善もしませんが、低下させるわけでもないことが明らかになりました。一方、ICTの有効活用が組織コミュニケーションの活性化につながれば、テレワークをしていても組織へのコミットメントは向上するようです。テレワークによって仕事の効率があがったり、ワークライフバランスが保たれたりするのであれば、テレワークの日と出社の日を両方設けることは、組織にとってメリットになるかもしれません。
とはいえ今回の調査では、回答者のテレワークの週平均時間が9.84時間でそれほど長くなく、対面出社とテレワークのハイブリッドの社員、テレワークのみの社員、テレワークなしの社員を分けて分析してはいないことには留意する必要があります。今回は、テレワークの平均時間という変数を分析モデルに入れたのですが、もしテレワークのみの社員とハイブリッドの社員と出社のみの社員との比較をすることができるなら、どのような結果が出るか興味深いところです。
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