
京都の市バスに乗ると、観光客で溢れかえり、地元の人が乗るスペースがありません。富士山では、登山客が増えすぎてゴミ問題が深刻化しています。観光産業の発展と地域住民の生活のバランスを取るためにはどうすればよいのでしょうか? 「コモニング」と「場所」をキーワードに、持続可能な観光のあり方について探ります。
インバウンド回復の一方で取り組むべき課題は山積
日本を訪れる外国人観光客(インバウンド)が、コロナ禍前を超える勢いで回復しています。観光庁の「インバウンド消費動向調査」(2025年1月速報値)によると、2024年の訪日外国人旅行消費額は8兆1395億円と過去最高を記録し、2019年比で69.1%増加しました。訪日外国人の数も3686万9900人となり、過去最高を更新しています。
この急激な回復の背景には、日本発着国際線の運航再開や新規就航、クルーズ船の運航再開、宿泊施設の新規開業、日本文化の魅力、接客水準の高さ、円安などが挙げられます。こうした要因が相まって観光産業はグローバル化しており、人々がより気軽に日本旅行を楽しめるようになっています。
観光客の増加は、地域経済にとって大きなメリットをもたらします。特に、京都や北海道などの観光地では、インバウンドによる収益が地域の重要な収入源となっています。しかし、その一方で、観光地の持続可能性という観点からはさまざまな課題が浮上しています。
第一に、観光のグローバル化は、国境を越えた企業の進出を促進します。日本でも、外資系の高級ホテルチェーンの進出が相次ぎ、地元の旅館やホテルとの競争が激しくなっています。外資系企業の進出は地域経済を活性化させる一方で、地元の観光業にとっては厳しい競争環境を生み出す要因にもなっています。
第二に、観光客が増えることで、地元の人々の生活に支障をきたすケースが増えています。たとえば、京都では観光客の増加により市バスが満員になり、地域住民が利用しづらくなっています。さらには、住宅街での騒音やゴミの放置など、日常生活への影響も無視できません。これら観光公害(オーバーツーリズム)は、観光産業のグローバル化の弊害であると言えるでしょう。
第三に、観光地の魅力は歴史的建造物や自然環境などの資源に支えられていますが、それらは適切に管理しなければ劣化や負の影響を避けられません。たとえば、富士山では登山者の急増によるゴミ問題やトイレの衛生管理の課題が深刻化しています。そこで、登山規制、通行料や協力金の徴収が実施されています。観光資源を持続可能な形で保全することが求められているのです。
このように、観光のグローバル化が進むなかで、経済的な利益を享受しつつ、地域住民の生活や観光資源を守るための新たな視点が必要とされています。その一つの解決策として、私は「コモニング(commoning)」という考え方に注目しています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。