
人生のターニングポイント残り物には福がある。人がやらないことに面白さは潜んでいる。
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【67】
私のターニングポイントは、公務員として各種産業の調査に携わった時期です。そのとき最初に貨物自動車運送業界を手がけたことが、現在の専門である、ロジスティクスやサプライチェーンマネジメントの領域を研究するきっかけとなりました。
大学卒業後の私は、銀行勤務を経て東京都商工指導所、現在の東京都中小企業振興公社で、都内の中小企業の経営指導を担うことになりました。中小企業の公的融資には、中小企業診断士の指導やチェックが条件となっているものがありました。そこで必須となる中小企業診断士の資格を取るために、当時は必要だった1年間の研修を受けて、9月に東京都商工指導所に戻ってきました。ほかの研究者は、4月から業界を選んですでに調査を始めており、私が戻ってきたときには、物流業界の調査だけが残っていました。あまり興味を持たれなかった業界だったのかもしれません。しかし、だからこそ惹かれるものがありました。イチから勉強するため、全日本トラック協会に赴き、トラック運輸産業の現状と課題などが記された「トラック白書」を7年分ぐらい借りて1週間ほどで読み込み、面白いなと感じるようになりました。半年で、一応の報告書をとりまとめたので、上司からは一定の評価をいただき、この分野に興味があることを伝えると、その方の紹介で物流分野の専門である大学の先生にお目に掛かる機会を得ました。その先生からちょうど物流の学会が設立されたところだからと誘っていただき、入会することができたことが、この分野の研究を始めるきっかけとなったのです。
現在、専門としているサプライチェーンは、原料調達に始まり、製造、在庫管理、物流、販売と、消費者に届くまでの複数の事業者をまたがる一連のオペレーションの体系を指します。もともと大学時代には、製造ラインをどう構築し、運用するかを考える、生産工程設計・管理を学んでいました。その後、銀行で学んだ金融や、商工指導所で研究した物流についての知識が役立って、物流やサプライチェーンマネジメントの研究に、結果として役立つようになったのです。
別段、意図してやったわけではなく、たまたまその場その場で求められた課題について懸命に考えていったところ、それまでの学びのすべてがつながっていきました。そこから、多少なりとも、ビジネスの仕組みを全体を俯瞰的に見渡せるようになり、自分の強みとして生かせるようになりました。これまでさまざまな専門領域で仕事をする機会を得ましたが、それらは決して無駄にはなりませんでした。
人があまり手を付けない仕事には、未解決な課題が潜んでいることもあります。「残り物には福がある」。物流・ロジスティクス、サプライチェーンの研究を始めて35年以上になりますが、当時は今のように新聞の一面に「物流」という単語が出てくる時代が来るとは想像もしていませんでした。皆さんもこれから任される仕事のすべてが、はじめは必ずしもやりたい仕事ばかりではないかもしれません。しかし、頑張って取り組み続けることで、そこに思わぬ面白さを発見し、それがご自身の得意分野になるかもしれません。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。