
人生で影響を受けた人物違う世代が見ている景色は、どんなものだろうか?
教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【92】
小学校の担任の先生、中学校の箏曲部(お箏)の先生、大学のゼミの先生、大学院の先生、それから学会でお世話になっている先生。これまで人生のさまざまなステージで出会った5人の先生方から影響を受けました。
中でも小学校1、2年生の時に担任していただいた先生の影響は大きいですね。厳しくも愛情に溢れ、凛として教壇に立たれる姿に憧れて、私も将来は先生になりたいと思ったものです。
また、この担任の先生から作文や詩を褒めていただいたことも、教師であると同時に論文を執筆する=文章を書く、現在の大学教員という仕事につながっているように感じています。
それから箏曲部の先生も。中学校の教師ではなく外部から招かれたコーチでしたので、高校からは弟子入りして、現在にいたるまで30年以上師事しています。
お箏の先生には、日本の伝統音楽の世界の面白さを教えていただきました。同時に、物事というのはその奥行きを知れば知るほど面白いんだということにも気付かせてくださったのです。
例えば、お箏の古典曲では演奏しながら歌を唄うことがあります。その歌詞がどんな時代に、どのような文化の中で生まれたのか、それを知ることでいっそう曲の世界を理解できるようになると思います。
知識が増えていけば、さらに好奇心が湧いてきて、その幅もどんどん広がっていきます。現在、国際日本学部で日本的流通システムを教えていますが、日本の歴史や文化に興味を持つようになったのは、お箏との出会いが大きかったと思います。
小学校の担任の先生やお箏の師匠に加え、大学時代や大学院時代にお世話になった3人の先生も含め、本当に多くの良き師との出会いに恵まれました。
すべての先生方に共通していることは、出会った当初、とても厳しかったということです。初学者だからといって、丁寧に教えるとか、こちらに合わせてくださるというような雰囲気ではありませんでした。
それは、どの先生も、独自の思想や哲学を強くお持ちだったからかもしれません。でも、そうした先生方の道を極める姿に大いに憧れを感じたのです。
そして、先生方が見ている景色と同じ景色を私も見たいと思いました。師匠のようにお箏を弾けたら、ゼミの先生のように文献を読み解けたら、世界はどんな風に見えるのだろうと、好奇心や向学心が駆り立てられ、それが私のこれまでの学びにつながってきたように思います。それでも、まだまだ先生方と同じ景色が見えているかわかりませんが。
そして今、教える側になって、学生と向き合うときにも似たような感覚を持っています。大学生たちがなぜSNSや動画サイトに夢中になっているのか。どんな感覚で、何を考えているのか、彼らに見えている景色にも興味があります。
だから自分で試したり、率直に学生たちに聞いてみたりする。単に流行りに乗りたい、というわけではなく、「ああ、こういう世界観なのか」「こういう認識なのか」と、やっぱり発見があるものです。
ゆとり教育の影響か、今の若い世代は、私のような受験戦争世代とは違って、豊かな協調性がありますし、直面する問題にたいして協力しながらより良く解決しようとする誠実さがあるように思います。
自分より年長の同僚の先生方であっても、若い大学生であっても、異なる世代の人々が見ている世界に興味をもつことによって、世代を超えたコミュニケーションがうまれ、自分の世界にも新しい見え方が得られるというのは、大学という教育現場にいて一番面白いと思う点です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。