恋愛小説が理解できる感情AIなら、痒いところに手が届く先回りも可能に
近年、感情AI(emotion AI)に関する研究が増えていますが、ここにも生成AIにとって越えるべき障壁があります。
生成AIは、テキストを処理して人間の集団の嗜好、傾向、行動を捉えることが可能です。そのためマーケティング、多言語翻訳、ミーティングのサマリー作成などにも手軽に使え、優れたインターフェースを提供できています。そのことから人間の群集心理、消費者心理も理解すると思われがちですが、現状はSNSのテキストのパターンを解析する程度にとどまっています。
心の機微や複雑な感情は、書き手や言語によって表現は異なるものです。テキストのパターンを分析しても、ただちに感情AIの実現にはつながりません。ここ最近、生成AIにエッセイを理解させる研究についての学術論文も発表されています。エッセイは他人との絡みがなく、自身の主張をロジカルに書いていることが多いので、まだ捉えやすいのです。
しかし小説を理解するのはハードルが高く、とくに日本語を含む少数言語で書かれた小説はサンプルが少なく難易度が高いと考えられます。なかでも難しいのは、私も取り組んでいる恋愛小説の理解です。感情を表す言葉を直訳する単語に置き換えれば、あたかも表現できているような錯覚に陥るかと思います。しかし、恋愛小説に見られるような、ストレートにはつながっていない言葉と思いをどう予測し捉えるかは、それほど単純なものではありません。
日本語から英語にするとき、今ならChatGPT でも翻訳できますし、DeepLのような翻訳ツールもあります。感情AIを実験する一環として、生成AIによって示された翻訳を、既に出版されている英訳本とも比較し、英訳のクオリティがどうすれば上がるのかを検討していきました。ポイントは、微妙な感情を翻訳する箇所に対し、「そう言ってほしかった」という英語で表現できているかどうかです。
具体的には、ChatGPTで日本語を投げ、英語で返ってきたときに、十分訳せていない場合、「Pay attention to emotions(感情を込めて)」といった短い英語による指示を与えます。すると機械学習により、その文章だけでなく、他の文章も訳文のクオリティが上がっていくことを実証しました。
感情AIの精度が上がれば、本格的な「スマホマーケティング」を実現できると考えられます。たとえばECサイトのインターフェースに入っている生成AIをさらに発展させると、スマホが利用者の思いを含めて先回りして「あなたが欲しいものはこれではないか」と提案することも可能でしょう。
大規模言語モデル全体をスマホに入れるのは無理ですが、インターフェースの重要な機能だけをスマホの中に組み込み、発信できれば、その人に特化したスマホマーケッターが常にそばにいることになります。これにより、欲しい商品や情報を効率的に探せるだけでなく、自分に合った提案を受けられるなど、ユーザー側にも大きなメリットが期待できます。
企業内での活用を考えると、社内教育の一定割合をAIにより均質に行うことも可能になるはずです。社内教育の担当者が複数であるため練度や表現の違いにより指導内容と密度および受講者の理解度に差が生じることは課題ですが、AIであればそれがなくなり、非常にフェアになります。感情AIであれば、受講者側の心理まで読んで答えることもできます。AIに投げかけられる質問は、あくまでも社内教育に特化したものであり、答えも一定の範囲に収まっていることがほとんどであるため、実現可能性は高いと考えています。
感情AIの実用化も、利用者がいかに理解し、納得するかがカギとなります。かつてAIは基礎知識のある人間が使うものでしたが、生成AIを中心とするこれからのAIは、AIを知らない人が使うのが前提です。「こう動くから、こう返ってくる」ということを説明できなければ、昔のマジックのような、ブラックボックスと化してしまいます。今後、AIが社会に広く浸透していくには、生成AIをホワイトボックス化し、判断過程を説明可能にするアプローチが不可欠です。精度と透明性の両立が、信頼される生成AIの実現へとつながるでしょう。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
