ロボットに褒められると他人を褒めるようになる
人間と同じ環境で活動するソーシャルロボットには、自然言語処理だけではなく、リアルタイムで状況を把握し、その場に応じた適切な行動や応答を行う能力が求められます。人と異なる原理で動作するシステムが人と共生できる存在になるためには、「人間の視点に立った振る舞い」の設計が欠かせません。
実は、人間はごくシンプルなプログラムであっても、コンピュータに「人らしさ」を感じてしまうことが報告されています。
1960年代に開発された「ELIZA」は、人の入力に対してパターンマッチングとテンプレート応答を用いるルールベースのプログラムで、意味を理解しているわけではなく、比較的単純な仕組みで動いていました。しかし、このシステムと対話した人々の中には、まるで自分を「理解」して会話しているかのように感じる人が少なくありませんでした。なかには、ELIZAが人間ではないと信じることが難しかった人もいたといいます。
興味深いのは、ELIZA自体には人間の会話を「理解」する機能などは全く備わっていなかったことです。当然、現在のLLMのように高度な推論をしていたわけでもありません。
人間は意識的にも無意識的にも、相手の発話や行動を「自分と同じような原理で動いている」とみなして理解する傾向を持っています。言い換えれば、中身がなくても中身があるように感じてしまう能力が人間にはあるのです。そのため、システムの客観的な「賢さ」と、人が感じ取る「賢さ」は必ずしも一致しません。
このことから、人とロボットの良いインタラクションをつくるには、人がロボットにどのような反応を示すのかという特性を把握することが重要になります。では、人間はロボットのどんな振る舞いに影響を受けるのでしょうか。私たちの研究から、いくつかの事例をご紹介しましょう。
これまでの研究で、人は他者から褒められることで学習効率や作業効率が向上することが示されています。では、この「褒める」という行為をロボットが行った場合、いかなる効果が認められるのか。
実験の結果、人はロボットから褒められてもパフォーマンスが向上することが確認されました。さらに、1台のロボットよりも2台のロボットに褒められた方が、より高い効果が見られました。加えて興味深いことに、ロボットからの「褒め」は人間どうしの関係にも波及することがわかりました。
具体的には、被験者にマウスを使ったドラッグ&ドロップの単純な課題を与え、①パフォーマンスに関わらずロボットが褒める場合、②回数などの中立的な情報だけを伝える場合、③「もっとやれるはずだ」などと煽る場合、のいずれかを体験してもらいました。その後、被験者に「他者のタスクを評価する」よう依頼しました。実際には、評価対象は被験者本人の作業を録画したものだったのですが、ロボットに褒められたグループは他のグループよりも「他者」を褒める傾向が高くなることがわかりました。
また、私たちは「褒め」を取り入れた英語学習システムの実験も行いました。未就学児に、イラストに合う英単語を選ぶ課題を出し、ロボットが褒めながら進めると、子どもたちがより長い時間学習に取り組むことが確認できました。

これらの結果は、人がロボットを単なる機械ではなく社会的存在として捉え、その振る舞いに影響を受けることを示唆しています。さらに、それが人の他者に対する態度にも伝播する可能性が高いのです。つまり、ロボットは単なる道具ではなく、人間社会に影響を与えうる存在であると言えます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
