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法律がわからないときは、その目的から調べる
2026.05.06

学びを加速させるアドバイス法律がわからないときは、その目的から調べる

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【27】

私は法科大学院(ロースクール)で会社法・商法の授業を担当していますが、これらの分野は企業活動の現場を知らない学生にとって理解しづらいとよく言われます。条文を読んでも実務のイメージが湧きにくく、「なぜこの規定が必要なのか」が見えないと学習が途端に抽象的になるからです。

そこで授業では、まず“現実の動き”を手がかりにしてもらう工夫をしています。たとえば最近報道された企業の不祥事や買収案件、株主総会での議論など、具体的なニュースを取り上げます。法律は社会で起きている問題を解決するために作られていますから、背景となる事実を知ることで、条文の意義が立体的に感じられるようになります。

実は、法律実務家として重要なのは、個々の条文を丸暗記することではありません。むしろ“なぜその結論に至るのか”を論理的に説明できる思考力、いわゆるリーガルマインドを身につけることこそが核心です。

とくに企業法務に携わるときには、独特のバランス感覚が求められます。企業活動の効率性・合理性を損なわず、同時に当事者間の公平と公正も確保しなければなりません。たとえばある規制を厳格に適用すればリスクは減りますが、企業の意思決定が遅くなり機会損失が生じるかもしれない。逆に柔軟すぎれば、利害関係者に不公平な結果をもたらすこともある。このような綱渡りの判断こそ、企業法務の本質です。

こうした思考力を磨くため、演習授業では“あえて答えが一つに定まらない事例”を用意します。複数の見解が成立しうる場面を提示し、学生に議論させながら、それぞれの結論のメリット・デメリットを比較してもらいます。結論が二分するからこそ、「自分なら依頼者にどう助言するか」という視点が生まれ、法律家としての感覚が鍛えられていきます。

さらに会社法・企業法の領域は、実務の変化が速く、法改正も頻繁に行われます。ITの進展やAI技術の普及に伴う新たな問題、コーポレートガバナンス改革、国際的な規制動向など、法律が対応すべき課題は日々更新されています。授業では、こうした“制度が変わる理由”にも触れ、学生が法改正の背後にある実務上のニーズを理解できるよう心がけています。

一方で、法律に馴染みのない方からすると、条文はどうしても抽象的で、どこから読めばよいのか分からないという声も多く聞きます。実際に仕事で法律が必要になったとき、「条文の意味がイメージできない」という悩みは少なくありません。

そのような場合、私はまず“法律の目的”を調べることを勧めています。個別の条文の細かい文言に入り込む前に、立法者が何を守ろうとし、どんな利益を調整しようとしているのかを理解するのです。会社法や商法であれば、株主・取締役・債権者といった異なる利害関係者の利益を、どのような仕組みで調和させようとしているのか――制度の基本理念を把握するだけで、条文の位置づけがぐっとクリアになります。

目的が分かれば、条文の読み方も変わります。なぜこの要件が必要なのか、どんな場面で問題になるのかが自分で推測できるようになり、自然と“落としどころ”を探るバランス感覚も身についていきます。法律を学ぶとは、答えを暗記することではなく、現実の問題をより良く解決するための思考方法を身につけることなのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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