
あなたは、努力すれば成功できる社会に生きていると思いますか? それとも、成功は運や生まれ次第だと感じていますか? 1980年代以降、日本社会では経済格差が拡大し、現在は相対的に貧しい階層がより厳しい状況に直面しています。こうした実態をデータとマクロ経済学の視点から読み解き、未来へのヒントを提示します。
「成功に必要なのは運」と考える人の増加
世界価値観調査(World Values Survey)という国際的な調査報告があります。1981年に始まり、現在約120の国・地域の人々の主観的な認識を明らかにしていますが、その中の質問項目として、「努力して働けば成功する」か「成功にはむしろ運やコネが重要」かを尋ねるものがあります。いわば、自分が所属する社会は「努力型」か「運型」かという認識を質問しているわけです。
回答の結果としては、北米や欧州などの先進国では「努力型」、南米やアフリカなどの発展途上国では「運型」という認識が出る傾向があります。とくに後者の場合、親の財力等によって子の人生が左右されやすく、政治が腐敗していると実力とは無関係の縁故主義になりやすいので、このような結果が出るのも納得できると思います。
一般的に、努力は報われると考えられている社会では、実力さえあれば大金持ちになるチャンスが転がっている(と多くの人が考える)ので、アメリカに見られるように、政府は働くインセンティブを与えるために、税率も低く設定する傾向があります。一方、努力は報われないと考えられている社会では、政府が特にお金持ちから税金を多く徴収して全体に再分配する政策が、ある程度は正当化されやすいと言えます。
では、日本の人々の意識はどうでしょうか。日本もまた先進各国と同様に「努力型」が優勢なのですが、実は、1990年代と比較すると、「長い目で見ると、勤勉に働けば生活がよくなって成功するものだ」と考える人は減少傾向にあります。
とくに直近の2024年調査では、前回2019年調査から実に9ポイントも減少して52.5%となり、反対に、「勤勉に働いても成功するとは限らない。むしろ運やコネによる部分が大きい」という回答が44.9%まで上昇していました(電通総研、同志社大学『世界価値観調査 1990〜2024年 日本時系列分析レポート』より)。
近年、「親ガチャ」という言葉が流行したように、「親の経済力や環境により、人生は大きく左右される」という社会観が、現代の日本では蔓延しているのかもしれません。また、その背景に、いわゆる格差社会の進行を指摘する論も見受けられます。
ところが、実際に「格差」が広がっているかというと、一概にはイエスとは言えないのです。先行研究によると、足元の約20年で格差が急激に拡大したという証拠は、いまのところ見つかっていません。その一方で、みなさんには「格差」が縮小しているという実感もまたないと思います。これはいったい、どういうことでしょうか?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
