Meiji.net

2025.03.31

特別講義法学部編 「演奏してみた」「歌ってみた」は著作権侵害?

特集
特別講義法学部編 「演奏してみた」「歌ってみた」は著作権侵害?
  • Share

SNSや動画共有サイトが一般的になり、高校生でも簡単に情報発信ができるようになりました。
でも、気軽に画像や動画をアップロードしていると、知らず知らずのうちに著作権を侵害してしまっているかもしれません。
この記事は、そんな身近な「著作権」をテーマに、明治大学法学部教授の金子敏哉先生による、高校生を対象とした特別講義の内容をご紹介します。

金子 敏哉
明治大学法学部教授
主な研究分野は、知的財産の準共有、知的財産法と他の法分野・学問領域との協働、知的財産権に関するエンフォースメントなど

動画投稿はアウト?

 私の専門の知的財産法は、特許法や著作権法など情報に関する法律を扱います。「歌ってみた」動画など音楽の演奏、歌唱が著作権法上どう扱われるのかを考え、法律の規定や解釈に接してもらいたいと思います。
 Xという人が著作権を持つ楽曲について、YがXに無断で次の①〜④をしたとき、著作権の侵害になるでしょうか。
①自宅のピアノで趣味として演奏
②高校の授業で音楽教師Yが演奏
③大学の文化祭で演奏(入場無料)
④③を動画サイトに投稿(視聴無料)

 答えは、①〜③は侵害にならず、④は侵害になる可能性が高いです。本講義ではその理由を説明していきます。

法学とは?

 そもそも法学とは、法を対象とする学問です。法には、憲法や刑法、民法、著作権法など、さまざまな種類があります。法学では、法がどのような仕組みで動いているのか、またどのように解釈すべきか、さらには法のあるべき姿について考えていきます。

 特に民法は日常生活に深く関わる重要な法律です。契約の成立や未成年者の契約の取り消し、相続に関する規定などが定められています。また、裁判の手続きを規定する民事訴訟法や刑事訴訟法、特許や著作権などを扱う知的財産法も存在します。

 法学の研究には、法律の条文を解釈するだけでなく、法の基礎理論や学際的なアプローチも含まれます。例えば、法哲学では「なぜ人を殺してはいけないのか」「死刑制度の正当性」などについて哲学的に考えます。法社会学では、社会学の手法を用いて法を分析し、歴史的研究や経済学的視点からの法学研究も行われています。また、日本の法律だけでなく、国際法の問題も重要なテーマとなっています。

著作権法の基本

 著作権法の概要について説明していきます。著作権法は、著作物を創作した人を著作者とし、その権利を保護する法律です。著作者の権利には「著作者人格権」と「著作権」があります。著作者人格権は他人に譲渡できませんが、著作権は譲渡可能です。例えば、ある楽曲をゴーストライターのAさんが作曲し、すべての権利をBさんに譲ると主張した場合、AさんからBさんへ著作権を譲渡することはできても、著作者人格権は譲渡できません。

 また、著作権法第20条第1項には「同一性保持権」という権利があり、これは著作物の内容を勝手に改変されない権利を指します。例えば、漫画の結末やセリフを編集者が勝手に変更して出版すると、この権利の侵害となります。しかし、建築物の場合は増築や改築に伴う改変が同一性保持権の侵害にならないなどの例外も定められています。

 著作権法は、著作物の保護期間についても規定しています。著作権は著作者の死後70年まで保護され、著作者人格権は生存中のみ有効ですが、死後も一定の保護がなされます。また、著作権は創作した瞬間に自動的に発生し、特許のように登録が必要ない点が特徴です。

 著作権侵害が成立するためには、著作権の内容に含まれる行為が行われ、かつ権利制限の適用を受けないことが必要です。著作権の主な権利には、「複製権」(コピーする権利)、「上演権・演奏権」(公に演奏・上演する権利)、「公衆送信権」(インターネットなどを通じて送信する権利)、「貸与権」(音楽CDのレンタルなど)が含まれます。

「公衆」が対象か、第38条第1項が適用されるかを考える

 それでは、冒頭の①から④のケースについて具体的に検討していきましょう。
 Xという人が著作権を持つ楽曲について、YがXに無断で次の①〜④をしたとき、著作権の侵害になるでしょうか。
①自宅のピアノで趣味として演奏
②高校の授業で音楽教師Yが演奏
③大学の文化祭で演奏(入場無料)
④③を動画サイトに投稿(視聴無料)

 著作権の権利の中でも今回は特に「上演権・演奏権」が重要です。著作権法第22条では、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定されています。ここでの「公衆」とは、不特定または多数の人を指し、例えば親しい友人同士ではこの権利の適用外となる可能性があります。

 まず、①は自宅での演奏で、公衆に聞かせる目的がないため演奏権の侵害になりません。②は演奏を聞く生徒と教師の間に人的結合がないかは何とも言えず、人数に関しても(1クラスの)数十人という人数が多数なのかは場合によります。③はほぼ間違いなく、公衆に聞かせる目的の演奏になるでしょう。

 公衆に聞かせる目的の演奏であっても、著作権の制限規定が適用されれば侵害となりません。著作権の制限規定の一つである第38条第1項では「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」と規定しています。学校での教育目的の演奏である②や、文化祭での非営利目的での演奏である③については第38条第1項により、著作権の侵害でないと言えます。

 ④はどうでしょうか。第38条第1項は上演・演奏・上映・口述について適用されるものですが、動画サイトへの投稿は著作権法上の行為としては「公衆送信」に当たり、第38条第1項が適用できないため、著作権の侵害となる可能性が高いです。対面での演奏と違い、公衆送信は多くの人に著作物が配信される可能性があることから、第38条第1項は公衆送信を権利制限の対象外としています。なお④のような行為も、権利者の許諾があれば侵害となりません。大手の動画投稿サイトは、著作権をまとめて管理している団体から許諾を得ている例もあります。

 演奏権と第38条第1項の権利制限については、カラオケでの歌唱や音楽教室における演奏を誰の行為と評価するかによって侵害の成否が変わることとなり、裁判例による様々な判断がなされています。興味がある方はぜひ調べてみてください。

権利と利用のバランスが大事

 著作権を侵害すると、民事裁判で著作権者から損害賠償請求を受ける可能性があります。また、著作権侵害は犯罪でもあり、刑事裁判で起訴されることもあります。このように、著作権侵害には民事・刑事の両方の責任が発生し得るのです。

 ただし、著作権はバランスが大事です。著作権制度の目的は、作品を創作した著作者が適切な利益を得られるようにし、努力して作品を作れば、それに応じた収入を確保できることを保証することです。著作権の保護があまりにないと、作品を作った途端にまねをされて、作品を作る意欲が失われてしまいます。

逆に著作権の保護が強過ぎると、作品を全く使えないことになってしまいます。例えば国語の授業で源氏物語を扱いたいときに、紫式部の遺族を全員探し出して許諾を得るのは不可能ですよね。どの辺りでバランスを取るのかが非常に大きな問題となります。

 このように法学部では、法をどのように解釈すべきか、また先ほどのような法律の規定をどのように作るべきかについて、日々議論しています。

■金子敏哉教授の関連記事
えっ!!それって著作権侵害になるの!? | Meiji.net(メイジネット)明治大学

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい