中山間地域の農業の持続を目的とした政策
中山間地域等直接支払制度とは、対象となる地域で、条件の悪い農地を耕作・管理する人に、作った農産物の種類に関わりなくお金を支給する制度です。
すなわち、この制度名にある「直接」とは、農産物を通して(間接)ではなく、どんな農産物をどれだけ作っても、それには関係なく、農地の面積に応じてお金を支給する、という意味合いなのです。
というと、腑に落ちない人も多いと思います。農業の支援とは、生産した農産物に応じて補助金を出すというイメージだからでしょう。頑張ってたくさん生産した人ほどたくさんお金を受け取ることができるので、それが生産のインセンティブになるという発想です。
しかし、欧米では、補助金によって生産のインセンティブになると、農産物の作り過ぎになってしまうことを危惧します。
すると、余って捨ててしまうようなことも起こります。頑張って作り過ぎると、土壌や水などの環境に負荷をかけることにもなります。そもそもガット・ウルグアイラウンドが始まった背景には、このような事情もありました。
そこで日本でも、農産物ではなく、農地を持続させることに対して支援する制度をつくったのです。
つまり、農業や農村には食料を生産する以外の多くの役割、すなわち、多面的機能があり、農地を維持することに社会的意義がある、という認識がそこにあるわけです。
この中山間地域等直接支払制度は現場の農家の方々の評価も高く、基本的な仕組みを維持したまま、20年あまり継続されています。
評価が高いことの大きな理由は、支給されたお金の使途の自由度が高いことです。農機具の購入など、農業に関わることに使わなければならないというような縛りはないのです。
ただし、「集落協定」を結ぶことが原則として義務づけられています。それは、農業がひとりの頑張りだけでできるものではなく、集落の人たちが協力して行う活動が必要という現実があるからです。
例えば、日本は水田による稲作が多いので、水路やため池などを整備し、管理することが必要です。それは個人でできることではありません。つまり、集落の機能が維持されてこそ、農業が持続できるのです。
そこで、集落のみんなが協力する活動にも支給したお金を使ってほしい、と誘導する意味で、集落協定が義務となっています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。