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「沈黙は金」「雄弁は銀」というけれど
2025.08.27

研究の裏話「沈黙は金」「雄弁は銀」というけれど

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/研究の裏話【3】

研究の裏話と言われて思い起こすのは、ドイツへの留学です。2019年4月に渡独し、2020年8月までミュンヘンに家族で滞在しました。

後半はいわゆるコロナ禍により、研究どころではありませんでした。しかしそういった特殊なハプニングだけでなく、もともとドイツ語が堪能とはいえなかったこともあり、日常生活からして大変なことだらけでした。住民登録はどうするのか、滞在許可はどうするのか、銀行口座はどうやって開設するのか……その都度、知り合いのドイツ人や日本人に教えを乞いながら進めていきました。

到着から1か月も経たない頃、ミュンヘンにあるオリンピアパークで遊んでいた娘が怪我をしたことがありました。救急医に診てはもらえましたが、ドイツ語で説明しなくてはならない。医学用語など普段使わない単語を調べようにもWi-Fiがうまくつながらず、頼みにしていた翻訳ツールも使えない。これが異国に来たことなんだなぁと改めて痛感しました。

私たちが滞在していたのは、外国の研究者が集まる宿泊施設でした。夕方になると決まって子どもたちが庭に出てきて遊ぶのですけれども、母親は仕事をされていたり料理をされているのか、だいたい子どもたちを連れてくるのは父親の役目でした。私も娘を連れて行く度に、ドイツ語が母語でない研究者たちから自然とドイツ語を教わるようになりました。そして、そんな「パパ友」との何気ない会話から教わった単語のおかげで難を逃れたという経験も一度や二度ではありませんでした。

コロナ禍になると、買い物などはマスクの着用が義務化されたほか、人との距離を1.5メートル以上とることを求める措置などがとられました。それまで、マスクをするのは決まってアジア人でしたから、ドイツ人のマスク姿には驚かされたものです。こんな次第ですから、ドイツの各地で感染拡大を抑える規制に反対する大規模デモが相次ぎました。ミュンヘンもその例外ではなく、中心部にある広場にたくさんの人たちが集まり、規制反対を訴えていたことがあります。もちろん、そのようなデモが今日からみれば的を射たものであったかなど、考えなくてはならない点も多いとは思うのですが、傍から見ていて、とりわけドイツ人が自分たちの意見を主張することをいかに大事にしているのか、思い知らされた気がしました。

自分の思いや考えを伝えるには、日本人によくあることかもしれませんが、伏し目がちに黙っていては駄目です。自分の経験を振り返ってみても、もぞもぞしているだけでは相手は何も理解を示してはくれませんでした。つたないドイツ語であろうとも、とにかくしゃべらなくてはいけないし、困ったときには助けを求めなければなりません。

さまざまな場面で助けてもらった経験から、人と人とのつながり、連帯することの大切さを実感しました。なかなか思うようにいかない留学でしたが、いまを生きるうえで得たものは多かったと思っています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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