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「性・恋愛・結婚」を日本の社会構造から考える

  • 明治大学 国際日本学部 教授
  • 鹿島 茂

最近の少子化にもつながる要因として、セックスレスが取り上げられることがあります。国立社会保障・人口問題研究所の2010年の実地調査によると、18~34歳の未婚者で「性経験がない」と回答した割合は、男性で36.2%、女性で38.7%という結果が出ています。原因は様々ですが、戦後日本の社会構造にも要因がありそうです。

「面倒くさい」だけではないセックスレスの要因

鹿島 茂 近年、セックスレスが問題視されていますが、キーワードのひとつは、「面倒くさい」です。最近の、特に若い世代は面倒くさいことが嫌いです。ところで、セックスに至るための恋愛はもともと面倒くさいものなのです。それを嫌がっていては、セックスレスになるのは当然です。では、性欲はないかというと、そんなことはない。どうするのかといえば、バーチャル・セックスです。わざわざ面倒くさい思いをして生身の人を相手にするより、画像や映像、物に淫する方がラクで楽しいし、手軽で何の責任も派生しない。オタク文化が隆盛し、草食系といわれる男子や、男より仕事に夢中という女性が増えていくわけです。

 しかし、こうした状況は個人の責任ばかりではありません。日本人は恋愛下手だといわれますが、もともと日本には恋愛結婚の習慣がなかったのです。だから、江戸時代には医者などが結婚斡旋を行っていたし、大正、昭和期には「お見合い」を設定してくれる世話焼き者がたくさんいたものです。なぜ、日本には恋愛基盤が形成されなかったのか、それは、日本独特の家族の構造からみることができます。

日本には恋愛結婚の習慣が育っていない

 現代の日本の文化や風習の多くは江戸期に形成されていきますが、家族の構造もそうです。家族類型で捉えると、日本は直系家族タイプで、親子関係を軸とし、子どもは結婚しても親との同居を続けるスタイルです。このスタイルが、戦前まで当たり前でした。戦後、アメリカの自由主義の価値観が急激に流入し、子どもが親から別居する核家族のスタイルが広まりました。このアメリカ的価値観は、独立して自分の家族を作るために、パートナーを恋愛によって獲得する文化を含んでいます。ところが日本には自由な恋愛結婚の習慣はありません。

 日本の直系家族のスタイルには、家の存続を重視するという特殊性があったからです。男にとってパートナーは「嫁」と呼ばれて、家に入る女を意味します。結婚、子づくりは家系を存続させるために行うのであり、そこに恋愛結婚は不要でした。妻問婚などの風習があった平安期には恋愛の価値観があったものの、武士社会になってくると家名を残すことが重要になり、江戸期以降は婿養子や夫婦養子をとってまで家の存続を図るようになりました。つまり結婚の目的は家の存続になっていったわけです。日本人が恋愛下手になったのは当然です。戦後、恋愛結婚のスタイルが入ってきたものの、恋愛基盤のない日本人にそれを強いるのは難しいと思います。ちなみに、自由主義の核家族文化圏に「嫁」という語彙(概念)はありません。

日本の特質を再認識すべき

鹿島 茂 戦後、日本は個人主義や自由主義を取り入れてきましたが、日本人の特質がそう簡単に変わるわけではありません。確かに核家族が増えましたが、反面、親子同居の家族形態は集団の幻想に転移することになります。学校、会社などの組織構造が親子同居型の疑似家族のように形成されることでもわかります。こうした組織構造は、政党やプロ野球のチームにも見られるではありませんか。むしろ、共同幻想の領域では原型がより堅固に保存されるのものです。アメリカやフランスに比べ、韓国やドイツ、スウェーデンの企業体質が日本と似ているのは、実はこれらの国の家族類型が日本と同じ直系家族だからです。

 本質は変わっていないのに、戦後、個人主義や自由主義の形ばかりを取り入れてきた日本社会の歪みは、セックスレスばかりではなく、多方面に現れています。例えばフランスでは、少子化対策の一環として、婚外子にもすべての社会保障の権利を保証するようにしました。その結果、2008年には婚外子の割合が52.6%まで上昇しています。※平成25年版 厚生労働白書より。その制度自体は20年ほど前から始まったものですが、もともとフランスには、子どもは国家が育てるという伝統がありました。昔から、捨て子などはカトリックの修道院などが預かり、育てていたのです。現在では、地域ごとの保育施設が充実するなど、女性や子ども関連の社会保障制度は世界一充実しているといえます。そのおかげで、女性は出産、子育てと、仕事を普通に両立させています。個人主義といわれるフランスは、その裏でしっかりとした共同体社会を形成しているのです。

 翻って日本はどうでしょう。ずいぶん前から女性が活躍する社会を目指すといっていながら、保育所や託児所不足はいつまでも解消されません。しかし、実は日本にも、女性の子育てを支援する習慣がありました。祖父母です。3世代が同居することで、出産後の女性も子どもを祖父母に預けて働きに出ることができました。フランスなど自由主義の競争社会が、実は落ちこぼれや弱者をサポートする社会保障制度を充実させてきたように、日本には血縁や地縁による共同体社会があり、助け合う仕組みがあったのです。その伝統を捨て去り、形ばかり自由主義を取り入れても、うまくいくはずがありません。

 今後、日本はどのような社会を構築していくのか、私にもわかりません。しかし、日本人の特質がそう簡単に変わることはないように、フランスが古くから育んできたような共同体社会を、日本が構築するのは簡単ではありません。むしろ、戦後の日本社会が捨て去ってきた日本独自の風習や庶民文化に、もっと目を向けるべきではないでしょうか。セックスレスの問題でいえば、もともと日本には個人が積極的に恋愛して結婚するような文化はないのです。だから「お見合い」のような習慣が生まれたのです。私は、現代にもお見合いはあってしかるべきだと思います。合コンのようなあからさまな仕掛けではなく、恋愛に消極的な人であっても男女の関係を紡いでいけるような、世話焼きのお節介による日本独自のお見合いです。これこそ、いまの日本のセックスレス状況を打開する救世主であると思いますよ。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

鹿島 茂

明治大学 国際日本学部 教授

研究分野
フランス文化
研究テーマ
日仏における近代の成立
【キーワード】パリ、東京、資本主義
主な著書・論文
  • 『馬車が買いたい』(白水社・1990年)
  • 『パサージュ論 熟読玩味』(青土社・1996年)
  • 『怪帝ナポレオンⅢ世』(講談社・2004年)
  • 『情念戦争』(集英社・2003年)
  • 『渋沢栄一』(文藝春秋・2011年)

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