
人生のターニングポイント「今までやり方は根本的に間違っていた」と気づけた、大失敗へのお叱り
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【69】
私のターニングポイントは、15年ほど前、研究のフィールドとしていた地域の方に、ひどくお叱りを受けたことです。
私が主にテーマとしていた交渉学・合意形成論は、話し合いで問題解決を図る方法についての研究です。その一環として、長崎県にある離島で、化石燃料の代わりに木質バイオマスをもっと利用してもらおうという取り組みがありました。CO2の排出を減らせるよう、島のエネルギーの仕組みを変えようとしたわけです。島の林業や製材などの関係者に集まっていただき、合意形成のための話し合いの場を設けました。
理論上、みんなが得をする仕組みだったので、話し合いで調整すれば、すぐに合意形成が実現するはずでした。しかし結果的には、「いま困っているわけではないのだから、わざわざ新しい仕組みを導入しなくてもいいのでは」という意見が多数派になってしまったのです。変化を推進していたご年配の方からは、「迷惑だった」と面と向かって言われました。「あんたのやったことは、根本的に間違っていたよ」と。
当時は視野が狭く不勉強で、地域で合意を取ってまちづくりをすれば、いい方向に進むだろうと考えていました。しかし関係者が集まる場をつくってしまったことで、やらない方向で合意が取れてしまったのです。もし私が関わらなければ、個々の活動が実を結び、仲間が少しずつ増えて、島が変わっていたかもしれません。激しく落ち込み、心から反省しました。
さらに、頻繁に行くことができず、密な人間関係が築けない場所だと、中途半端な関わり方になってしまいます。自分は間違ったことをしたなと痛感し、考え方やアプローチを抜本的に変えようと決意。遠くの場所で短時間だけ関わるような調査は一切やめ、自分の暮らす地域でずっと関わる形で調査するスタイルに変えたのが、大きな転換点でした。
ほどなく当時勤めていた東京大学のボスから、研究会の通訳の仕事を頼まれました。オランダから若手の研究者が来日しての講演でしたが、そのなかに「合意形成ばかりでは、社会の仕組みは変わらないどころか、変化が阻害される」というお話があり、まさに目からウロコが落ちる思いでした。それ以降、講演された「トランジション・マネジメント」が私のテーマにもなり、研究と実践を重ねるようになりました。
何か大失敗をしたときに、今までのやり方で直そうとするのではなく、全然違うやり方もあるんじゃないかと視野を広げ、模索することは重要です。「今までが全部、間違えていたかもしれない」と捉えるぐらいのオープンさは大事だと思います。新たな手法を見つけるきっかけとして、面倒だと感じる仕事でも関わってみると、解決策のヒントが転がっているかもしれません。
あのとき怒ってくれた方には、ものすごく感謝しています。単に煙たがられるだけだったのなら、気づけていなかったかもしれません。真正面から叱っていただけたおかげで、今があります。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。