
2023.03.23
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。
私には3人の恩師がいますが、今回は修士時代の指導教授である清水猛・慶應義塾大学名誉教授についてお話しさせていただきます。
清水猛先生は、マーケティング視点からの広告研究における日本の先駆者の一人です。
先生の若かりし頃、すでに日本企業は欧米の先進諸国から一目置かれるような技術力と経営力を有していました。ところが広告のこととなるとそうとも言えず、経営者や担当部局の直観ベースで広告戦略が立案されるような前近代的な有様でした。
そんな時代にあって、先生は統計解析技法を用いた実証研究を日本にいち早く導入し、学術界と実業界に多大なインパクトを与えられました。
私が学生として門下の末席に加えていただいたのは、清水先生が大学で教鞭をとられていた長い期間の最後の時期でした。先生は多種多様な統計解析の大きな潮流や小さな留意点について、いちいちご教授なさいませんでしたが、代わりに門下に集う学者や学生が最先端の議論を活発に展開していました。
そうした先輩方から刺激を受けて、私も実証研究の様式を独習し、自らの広告研究に取り入れることができました。
日本では、いまだに世界標準から逸脱した独自様式で広告を探究する学者や実務家が大勢いらっしゃいます。その点、私は清水猛門下で世界最先端の技法をキャッチアップする姿勢を学ばせていただく幸運を得ることができたのです。
もう一つ、長い広告実務家時代を経て、明治大学に教育研究者として奉職するようになった私が今、感じ入っているのは清水猛先生の指導方針です。
明治大学国際日本学部のゼミ教育は高く評価されています。そんな組織に奉職するにあたり、私が模範としたのがまさに清水猛ゼミなのです。多くの優秀な学者や実務家を輩出する名門ゼミを主宰なさった先生ですが、門下生をグイグイと先導なさったかというと、むしろ逆でとても寡黙な方でした。
しかし、不意に発せられる鋭い一言に窮してしまわぬようにと、門下生たちが準備万端整えるのでゼミは自然と高質化していったのです。
私も静かに温かく見守りながら、生徒一人ひとりが自己と組織の成長のために自律的に思考し行動するようなゼミを運営したいと思います。
そして、卒業生たちが広告業界などで活躍し、より素晴らしい次代を切り拓いてくれる様を見届けることを歓びとするような教師でありたいと思っています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。