2024.03.21
- 2021年2月2日
- リレーコラム
#6 新規学卒採用はなくなる?
山崎 憲 明治大学 経営学部 准教授アメリカは新規学卒採用ではない、というのは間違い
人事労務管理の論点のひとつに、新規学卒一括採用をやめるべきだ、というものがあります。要は、企業側からすると、ハイエンドの人材を青田買いしたいということです。
確かに、ハイエンドの人材は日本だけでなく、世界からも狙われます。日本の人材を引き抜かれたくないという思惑もあるのでしょう。
しかし、その根底にあるのは、アメリカなどでは、優秀な学生を見つけると卒業を待たずに採用したり、逆に、卒業後すぐには定職に就かず、自分の売り頃を見て就職する学生が多い、というようなイメージがあるからではないでしょうか。実は、それはまったくの間違いです。
例えば、日本では、企業が学生を大学でスクリーニングすることは問題になりますが、アメリカでは、むしろ、トップレベルの学生が欲しければ、トップレベルの大学にアプローチします。中堅レベルの学生が採りたければ、中堅レベルの大学にアプローチします。
それは、大学ごとに、GPA(取得単位の成績評価値)の平均スコアが公表されていて、企業側にとっては、大学のレベルを客観的に比較できることがあるとともに、大学は学生に対する信用保証にもなっているからです。
だから、企業が大学でスクリーニングするのは当然のことだし、学生にとってみれば、卒業してしまうと自分の信用保証を失うことになるので、在学中に企業の内定を得ようと必死です。成績が悪くて内定が得られなかった場合は、留年してGPAを上げる努力もします。
つまり、企業と大学、学生の関係は、むしろ日本よりも濃密になってきていると言えます。
アメリカの大学にも学生の就職を支援するキャリアセンターという部署があります。しかし、活動内容には、日本の大学の就職部とは異なる点もあります。
そのひとつが、企業が学生に求める能力を育成するために、キャリアセンターが独自に講義をもっていることです。それは、例えば、クリティカルシンキングであったり、コミュニケーション、問題解決能力、チームワーク、リーダーシップなどです。その専門の講師を招いて講義を行うのです。
つまり、大学の本分であるアカデミックな教育と、企業が求める実学を分け、実学はキャリアセンターが担うという形で、非常にシステマティックに行われているのです。
要は、企業と大学が密接な関係をもち、連携することで、ハイエンドの人材をじっくり育てることもできれば、そこから漏れてしまった学生も、別の仕事や生き方を選択できるようなシステムが構築されてきているわけです。その結果として、新規学卒採用が機能しているのです。
日本も、ひとつの戦略としてプラットフォームビジネスを目指すことはわかりますが、そのために余りにも一直線になり、視野が狭くなるのは危険です。実際、青田買いをすることで優秀な人材が育つわけではないのです。
もっと、一直線の外側や裏側にも目を配るべきでしょう。そこには多様性があります。その多様性がサステナビリティに繋がることを忘れてはいけません。
その意味では、プラットフォームビジネスも、それによる社会の二極化の進行も先行したアメリカには、教師として、反面教師として、学ぶことはたくさんあると思います。
その一つのカギは、「働かせる」だけではなくて、「働く」側の視点でどのようにすればより良い人生を送ることができるのか問い続けることなのです。
#1 人事労務管理とは?
#2 日本は他国の下請け産業の国になる?
#3 労働者は三層化する?
#4 日本の労働者の二極化が進行する?
#5 働き方はいろいろあって良い?
#6 新規学卒採用はなくなる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。