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自分たちを分析して、ロジックにするような作業が必要

日本のアニメーションが独自の発展を遂げてきた背景には、作り手と受け手の距離が近く、ともにお祭りをしているような、すごく良い関係があったということを述べてきました。それは、とても幸せなことだと思います。

一方で、世界が日本のアニメーションに気づき、驚嘆し、評判になっても、日本人自身が、その価値に気づいていない、あるいは言葉に出来ないという悲劇的な状況も続いています。

それは、日本国内のアニメーションの環境が良すぎていたためです。あえて世界に目を向ける必要がなく、わざわざ自分たちを分析して、ロジックにするような意識も希薄だったのです。

その間に、日本のアニメーションを分析し、研究していたアメリカは、その結果を投影した実写映画や3DCG映画を次々と制作し、大ヒットさせてきました。そして今は中国が、日本的スタイルのアニメーション映画で追い上げ始めています。

これまで日本のアニメーションは進化を続け、以前とは違う新しい作品を作り続け、世界を驚かせてきました。しかし、DVDやBlu-rayも売れなくなった現在、それが永遠に続く保証はありません。

これからも、そうした進化を続けるためには、自分たちが何をしてきたのか、その特徴を体系化、言語化し、それを踏まえて次に進むような仕組みを構築する作業が必要です。

もちろん、作り手には、進化し続けたいという意欲はあると思います。しかし、作り手なら言葉よりも、実作で示したいと考えるのではないでしょうか。であれば、整理、分析、体系化などの言語化でそれを支えていくのは受け手です。

アニメファンである私たちが、作り手とのお祭りのような関係を越えて、世界に対する意識をもう少しもっていくことで、日本のアニメーションはさらなる進化が可能だと思います。

それは、日常的にできるささやかなことから始まるはずです。例えば、いま、日本のアニメーションが大好きになり、日本を訪れる外国人はたくさんいます。そういった人たちを街で見かけたら、簡単な言葉でもかまいません、話しかけてみてはどうでしょうか。

先に、アニメーションには国際言語性があると述べました。簡単な会話から深い交流を生むことは、決して難しいことではないし、楽しいはずです。

海外のファンとの交流によって、あなたの知らなかった視点で、知っていたつもりのことを見直し、新たな発見を得ることもあるでしょう。それは、自分たちの良さの再発見や再認識に繋がるはずです。

日本のファンが、日本のアニメーションの良さや素晴らしさを世界に発信できるような意識をもったとき、日本のアニメーションは永遠に壊れることがない、日本の文化として、世界に誇れるようになると思います。

#1 日本のアニメはいつから世界で人気になったの?
#2 アニメはオタク文化?
#3 アニメを観て、幸せになる?
#4 日本のアニメの特徴って?
#5 日本のアニメの未来はどうなる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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