
2023.02.03
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公共事業は、様々な理由で長期間凍結されたり、棚上げになることもあります。
例えば、現在、関越道上りは練馬ICが終点になっていますが、その先、都内を南下して、中央道、東名高速に繋がる計画が以前からありました。しかし、地域住民の反対運動が高まり、1960年代の美濃部都政の頃、この計画が凍結されます。ある意味、住民の意見が、決定していた都市計画の実施を止めたのです。
ところが、それから50年、半世紀が経った現在、都内の交通量の増加とそれにともなう渋滞を緩和するために、この計画は再開されています。その際、道路を地下に造るなど計画が変更され、住民との合意がなされました。
反対運動から始まりましたが、50年の歳月をかけ、この都市計画が必要との理解が進むとともに、住民の意見を取り入れた計画の見直しや変更があり、事業実施に至ったといえるケースです。
また状況が違う事例として、沖縄の鉄道計画が挙げられます。戦前には鉄道があった沖縄ですが、戦時中にすべて破壊され、戦後は長年にわたって鉄道がない状態が続いてきました(2003年に那覇市内を走るゆいレールが開通しました)。その結果、沖縄本島は自動車依存社会となり、渋滞等の社会問題が深刻化しているため、政府や県は公共事業として那覇から名護まで鉄道を造る計画を検討してきました。
しかし、政府による投資が不可欠な大規模事業ですから、米軍基地を巡る政権と県政との関係で、別の力学が作用するのも現実です。交通工学や都市計画にしたがって整備されるべきだと思う人もいるでしょうが、現実の公共事業整備は、政治に影響されるものなのです。
沖縄県は、粛々と計画の検討を進めるとともに、計画の検討状況を知らせるパネル展示やオープンハウス、また、県民会議や市町村会議などで意見交換会を実施してきました。県民の支持が高いことが明らかになれば、政府もそれを無視はできないはずです。
公共事業に対して、市民が参画する手段のひとつに選挙があります。事業に賛成派の候補者、反対派の候補者に票を入れることで、有権者としての意思を示すわけですが、選挙の争点が公共事業だけではないこともあります。
そのようなときには、政治の動きとは別に、自治体行政がその都市計画に対する県民や市民の声を集めて力にすることで、それが、ときには超党派の支持に繋がり、政治が不安定であっても、それに翻弄されることなく、県民や市民の意思を反映した形を実現することが可能になってきます。
公共事業は国や行政が強制的に行うものなどと思わず、私たち市民一人ひとりが様々な機会に声をあげ、計画づくりに参画していくことが大切なのです。
次回は、公共事業にともなう補償問題について解説します。
#1 公共事業はどうやって進められるの?
#2 市民が公共事業の計画に参画できるの?
#3 公共事業の補償って、お金を払うだけでしょう?
#4 これからの公共事業はどうなるの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。