2024.03.14
- 2020年1月14日
- リレーコラム
#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?
平口 良司 明治大学 政治経済学部 教授激化する競争社会の中で格差が広がることは避けがたい
近年、日本でも格差が大きな社会問題と言われるようになってきています。確かに、勝ち組、負け組というような言い方があったり、ワーキングプアも深刻な問題です。
日本が一億総中流社会と言われた時代から、現在の格差社会になった理由はいくつかありますが、ひとつは、非正規雇用が広がったことだと考えられます。
そのきっかけは、2000年代の規制緩和にありますが、その背景には、バブル景気の崩壊にともなって、企業にとっては非常に厳しい状況となったことがあります。実際、銀行や大手証券会社まで倒産や合併が起きました。
ところが日本では、企業は正社員を雇用すると、給与はもちろん厚生年金や健康保険、企業年金等の負担なども負うことになります。そのため、負担を避けたい企業は正社員の雇用を絞っていきました。
しかし、人手は必要なのですから、その意味では、雇用形態の流動化を招いた規制緩和は避けられなかったことではないかと思います。
もうひとつの理由が、経済のグローバル化が進んだことです。
このことは、一般消費者にとっても、これまでは日本製品を買うことが当たり前だった状況から、安い海外製品や、従来にはなかった高付加価値の海外製品を選択できるようになったことでもあり、国内企業にとっては競争が激化したことを意味します。
逆に言えば、海外に進出するチャンスが増えたことでもあります。その結果、競争に負けて衰退する企業と、世界に市場を広げ、これまで以上に収益を上げる企業が現れ、企業間格差が拡大したのです。
すると、成功した経営者は、従来の国内企業では考えられなかったほど高額の報酬を得ることができるようになったのです。
つまり、ある意味、国内でみんなで仲良く頑張り、安泰と一億総中流を実現した社会から、厳しい国際競争に否応なく巻き込まれ、成功した者はいままでにはない莫大な利益を上げることができる社会状況に変わってきたということです。
その結果、格差が広がる社会になったことは、やむを得ない面もあると思います。
むしろ問題は、一度ついた格差が取り戻せないことです。2000年代に正社員になれなかった者は、いまでもワーキングプアのままであったり、親が貧困だと、その子どもも貧困から抜け出せないことが大きな問題なのです。
競争の結果による格差の拡大がやむを得ないような社会であるならば、各人には、競争のチャンスが平等に与えられること、また、何度でも競争できることが担保されていなければなりません。
また、社会にとっては、人々の格差が取り戻せないことは階層の流動性に欠けることになり、結果として、そうした社会が衰退することは明らかです。日本社会も、こうした面から見直すことが必要なのです。
次回は、社会の成長に繋がる経済の成長について解説します。
#1 日本はどうして格差社会になってしまったの?
#2 一度ついた格差は取り戻せない?
#3 どうすれば格差を是正できる?
#4 個人での格差是正策はある?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。