明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

#1 日本のアニメはいつから世界で人気になったの?

氷川 竜介 氷川 竜介 明治大学 大学院 国際日本学研究科 特任教授

90年代後半、ハイテク日本の象徴になったアニメーション

現在では、日本のアニメーションは、日本を代表するポップカルチャーのひとつと見なされ、政府が取り組むクールジャパン戦略の中核にもなっています。

もちろん、日本でもアニメーションは多くの人に愛され、楽しまれていて、世界でも人気があることをうれしく思っている人は多いと思います。

でも、日本のアニメーションが、なぜ、世界で認められ、人気を得るようになったのか、皆さんはご存じでしょうか。最初から、世界で評価が高かったわけではないのです。

日本のアニメーションが世界で認められるようになったのは、1990年代の中盤くらいからです。

それ以前は、例えば、1960年代に「鉄腕アトム」や、「ジャングル大帝」、「マッハGoGoGo」などがアメリカのTVネットワークに載り、かなり広範囲で視聴され、向こうの映像クリエイターたちにも影響を与えましたが、一過性のブームとして終わっています。

70年代、80年代にも、評判となる作品がありましたが、日本の作品とは認識されずに広まったり、一部の作品は暴力的な表現が問題視されるなど、やはり人気は一過性で終わっています。

そうした中で、1988年に「AKIRA」(大友克洋監督)という作品が登場し、そのリアルさや、近未来の時代設定(実は2019年)が、アメリカの先端的な一部の大学生たちに注目されます。

それまでは、アメリカに限らず世界の人たちにとって、アニメーションとは、ディズニーに代表されるような、楽しく、面白く、ハッピーエンドな内容で、キッズ向けというものでした。ところが、「AKIRA」は青年層から大人が楽しめる内容だったのです。

一方、社会は、90年代になると、パーソナルコンピュータ(PC)が広く普及するなど、電子・情報技術中心のハイテク社会に進んでいました。

その中で、日本はコンピュータに使う電子素子の小型化で世界のトップ水準に立ち、携帯電話の分野でもi-modeを開発するなど世界をリードする存在になり、ハイテク立国と目されるようになっていました。

そうした中で、1995年、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(押井守監督)というアニメ映画が公開されます。

2030年代を舞台にしたサイバーポリスのストーリーですが、サイボーグ化してすごい戦闘力を獲得した女性捜査官や、ネット通信によるコミュニケーション、現代のグーグルマップのような、当時としては先端的なハイテクグッズが次々と登場し、さらに、奇抜でありながらリアルなアクションシーンに、アメリカの映像業界は衝撃を受けました。

ここで、ハイテク日本のイメージが、日本のアニメーションの表現力のイメージと重なり、むしろ、日本のアニメーションが日本のハイテクを象徴するような存在として認識され、世界から本格的に注目され始めるのです。

でも、日本の多くのファンにとっては、「AKIRA」も、「攻殻機動隊」も優れた作品には違いませんが、テレビや劇場に、まるで草木が生えるかのようにどんどん発表される、実に多様なストーリーやキャラクター、表現技術が工夫された作品群の中のひとつにすぎません。その中から好きなものを選んで観ることができるという、とても幸せなことを享受していることに、なかなか気づかなかったのです。

こうしたギャップが、日本人自身が知らないうちに日本のアニメーションが世界から注目され、その理由が今でもよくわからない、ということに繋がっているのではないかと思います。

次回は、90年代後半から2000年代にかけて起きたことについて解説します。

#1 日本のアニメはいつから世界で人気になったの?
#2 アニメはオタク文化?
#3 アニメを観て、幸せになる?
#4 日本のアニメの特徴って?
#5 日本のアニメの未来はどうなる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

リレーコラムの関連記事

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.3.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

  • 明治大学 商学部 特任准教授
  • 松尾 隆策
ブログを書いて開けた研究者の道

2024.3.6

ブログを書いて開けた研究者の道

  • 明治大学 法学部 教授
  • 横田 明美
法科大学院で見た学生の姿が、研究者人生を変えてくれた

2024.2.28

法科大学院で見た学生の姿が、研究者人生を変えてくれた

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 清野 幾久子
本質を理解することで見えてくるものがある

2024.2.21

本質を理解することで見えてくるものがある

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 岩瀬 顕秀
失敗を恐れずに挑戦し続けなければ、成功はつかめない

2024.2.14

失敗を恐れずに挑戦し続けなければ、成功はつかめない

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 加藤 竜太

新着記事

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

2024.03.06

ブログを書いて開けた研究者の道

2024.02.29

LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

人気記事ランキング

1

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

2

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

5

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

連載記事