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何が制度を変えるのか?

明治大学 政治経済学部 准教授 木寺 元

地域アートプロジェクト「としまアートステーション構想」のアーティストさんたちの活動をゼミでお手伝い

何が制度を変えるのか?

地域アートプロジェクト「としまアートステーション構想」のアーティストさんたちの活動をゼミでお手伝い地域アートプロジェクト「としまアートステーション構想」のアーティストさんたちの活動をゼミでお手伝い 制度は変化する。しかし、制度の定義を考えればそれは少し奇妙なことだ。法律や慣習、規範、などといった制度を、学問はさまざまな領域で定義づけてきた。しかし、共通して、制度とは継続して存在するものだと考えられている。みなさんも「制度」と言えば恐らく持続的なものを想像するだろう。

 それでも、制度は変化する。その変化のメカニズムを政治学はどう捉えてきたか。

 主潮的な見方は、「利益」を重視する。政治家や官僚といった政治的アクターにとって、現行の制度を維持するよりも利益になる様な新しい制度案がある場合、既設制度の改廃の動きが公的な意思決定過程に上に出現し、制度変化に繋がっていく。このようにアクターが自らの利益の最大化を目指し行動するという前提に立って政治過程を分析するアプローチを「合理的選択論」という。これは経済学が通常前提とする合理的な個人像と親和性が高い。

 このアプローチは強い説明力を持つ一方で、人間の情報収集能力や処理能力には限界があり、限られた情報の中でしかアクターは行動できない(限定合理性)などの指摘などがある。こうした批判は経済学では行動経済学などの発展につながった。また政治学では同様にアクターの認識枠組みに注目したアプローチが発達した。

 そのひとつが、「コンストラクティヴィズム」である。このアプローチは、特に国際政治学の分野において発展した。例えば、脅威は実際に脅威であるからではなく、脅威と認識されてはじめて脅威となる。つまりアクターが認識する「現実」や自らのアイデンティティは、〝作られるもの〞であるとの前提に立つのが、このアプローチである。このアプローチでは、間主観的に現実を定義付け、解決策を提示し、アクターの行動の指針となるものとして、アイディアや規範を重視する。このような間主観的な要素を重視し、国際政治のみならず国内政治の分析にも適用するアプローチは、「アイディアの政治」とも言われる。

 とはいえ、政治的アクターの認識を客観的に理解することは難しい。オーラルヒストリーの蓄積やエスノメソドロジーの手法の洗練化が「アイディアの政治」アプローチからも要請されている。

 同様に、間主観性に注目したアプローチとしては、「言説的制度論」がある。これはどのような言説が制度改革の局面で影響力を持つのかを政治制度との連関で捉えるものである。たとえば、議会多数党の党首や直接選挙で選出された大統領が強大な権力を握る執政長官となる政治体制の場合、制度改革には世論の支持が必要なので、分かりやいスローガンや価値についてのワーディングが強い影響力を持つ。一方、権力が様々な機関に分散されている政治体制の場合、制度改革には政治的エリート間の合意が必要なので、技術的、専門的な言説が重要となる。

会田誠作品「檄」と(東京都現代美術館にて)会田誠作品「檄」と(東京都現代美術館にて) さて、木寺はアイディアや言説に基づいて政治分析を進めてきたが、最近では、さらに言語化されない領域として「アート」に着目し、制度変化との関係に関心を持っている。アートは言語で表現するには複雑で捉えられがたい問題について、人々に気付きを与え、政治的なアジェンダに載せることがしばしばある。たとえば1970年代以降のポリティカル・アートはジェンダーやエスニシティ、経済格差などの問題を告発し、ときに政策に影響を与えた。

 また越後妻有の大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭など日本でも各地でアートプロジェクトが実施されているが、地方政府が社会関係資本の醸成など政策の手段としてアートプロジェクトを活用する事例も増えている。ここでもアートは違う形で地域政策に変化をもたらしている。一方で、東京都現代美術館における会田誠作品の撤去要請騒動のように、政治とアートは一定の緊張関係も孕みうる。

 今後は、制度をめぐる隣接諸科学との対話を重ねる一方で、学生たちとともに地域のアートプロジェクトに実践的に関わりながら、制度変化に対するアートの影響力や政治におけるその可能性を検討していきたい。

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