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水の力でごみを肥料に変える

明治大学 農場 特任教授 藤原 俊六郎

水の力でごみを肥料に変える

※本内容は、明治大学広報誌『明治』VOL.66(2015年4月発行)に掲載されたものです。

都市の中の黒川農場

総面積約12万8000㎡におよぶ黒川農場
総面積約12万8000㎡におよぶ黒川農場
 未来農業を指向して2012年4月に開所した黒川農場は、「環境共生」および「地域共生」をコンセプトとし、有機栽培から先端的養液栽培まで多様な作物栽培が行われています。黒川農場は、首都圏の川崎市にありますが、里山に囲まれた豊かな自然環境の中で、圃場を使った学生の実習や研究活動が行われています。
 現在、都市では生ごみなど、農村部では作物残渣など有機性廃棄物の処理が大きな課題になっています。都市に臨接した黒川農場では、都市と農村の物質循環をめざして、水の力で有機性廃棄物を肥料化する研究に取り組んでいます。

水で分解する?

亜臨界水処理装置
亜臨界水処理装置
 水は、生物が生きてゆくのに欠かせない安定な物質で、低温では氷(固体)、常温では水(液体)、高温では水蒸気(気体)になります。水を密閉容器内で374℃・218気圧まで高めると、液体と気体の区別がつかない状態になり、これを「水の臨界点」といいます。この点を超えると、水は液体の時の大きな分子のまま、気体のように活発に動き、分解しにくい物質の分子に強い力でぶつかり変化させ、新しい物質に変えてしまうことができます。同時に、水分子が溶解作用をもち、油類をも溶かしてしまいます。この臨界状態より、温度や圧力が低い条件を「亜臨界」状態といい、亜臨界水は強い有機物の分解力を発揮します。

水の力で肥料をつくるプロジェクト

分解槽に野菜を投入
分解槽に野菜を投入
 黒川農場では、この水の持つ不思議な力を利用して、有機性廃棄物を水の力だけで短時間に分解して液状の肥料(液肥)にする研究に取り組んでいます。有機性廃棄物が亜臨界水処理により液状になることはよく知られていますが、液肥として利用している事例は世界的にみられません。これは、原料や分解条件(温度・圧力)により様々な物質が生産され、作物栽培に適さないことが多いためです。とくに植物性廃棄物では、分解過程で有機酸やフルフラール類などの根に有害な物質が生産され、作物生育を阻害します。この解決のため、黒川農場では文科省の助成を得て、「亜臨界水処理有機液肥による地域内有機資源循環農業システムの構築」として、以下の3段階で研究を進めています。

出来た液肥
出来た液肥
 第1段階は、いろいろな有機性廃棄物を亜臨界水処理するときに生じる生育阻害物質の生成メカニズムを解明し、阻害低減技術を開発します。これにより安心して使える有機液肥の生産が可能になります。
 第2段階は、近隣地域から排出される、家庭生ごみや食品廃棄物、圃場廃棄物・家畜糞尿などの幅広い有機性廃棄物を液肥に変換し、実際の栽培に活用する方法を検討します。これにより、地域の有機資源を活用した循環型農業技術を確立することができます。
 最終段階は、亜臨界水処理液肥を用いた新たな循環型栽培システムを確立し、都市型農業モデルを黒川農場で実証し、広く国内に普及させます。さらに開発途上国への普及のために地下水汚染が深刻なフィリピンへの適用を計画しています。

成果を実用化へ

液肥を使った栽培試験(チンゲンサイ)
液肥を使った栽培試験(チンゲンサイ)
 「亜臨界水処理」というと、なんだか怖いイメージがありますが、実際は「圧力鍋」を強力にしたようなものです。高圧蒸気を密閉容器に導入して短時間で分解するので、不潔感が無く、生ごみのような高水分物質の処理では燃焼よりも必要エネルギーが小さくてすみます。しかし、新しい技術なので、実用化のためには、解決しなければならない数多くの課題があります。幸い、農場には肥料化や作物栽培に見識のある先生や研究員がいます。現在、農場を中心に工学系など外部の研究者と協力し、実用化のための技術開発に取り組んでいます。近い将来、水の力でごみを資源(肥料)に変える技術が普及する時代がくるでしょう。

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