明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

日本古代学研究所 – 日本列島の文明化を究明する古代学の国際的構築を目指す –

明治大学 文学部教授 日本古代学研究所所長 吉村 武彦

日本列島の文明化を究明する古代学の国際的構築を目指す

※本内容は、明治大学広報誌『明治』VOL.59(2013年7月発行)に掲載されたものです。

 明治大学日本古代学研究所は、これまで明治大学が培ってきた日本列島古代の考古学・歴史学・文学の研究業績を基礎として、新たに「日本列島の文明化を究明する古代学の国際的構築」というテーマに集約して脱構築し、国際的視野から古代学を総合化する研究課題に取り組んでいます。いわば「国際日本古代学」です。
 2009年度からは「研究クラスター」として、旺盛に研究活動を展開しています。ホームページをはじめ、各種の公開研究会・シンポジウムを開催していますので、一度はポスターやホームページなどを見られた方がおられるのではないでしょうか。

これまでの研究活動

 本プロジェクト研究の土台としては、文部科学省・学術フロンティア推進事業「日本古代文化における文字・図像・伝承と宗教の総合的研究」(2004〜2008年度、大型研究)があり、これを再編して継続した文部科学省・私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「日本列島の文明を究明する古代学の総合化研究」(2009〜2013年度、新大型研究)が、現在進行形のかたちで動いています。支援事業の中間評価は「A・A」でしたが、課題が残されていないわけではありません。
 これらの研究活動と文学研究科の大学院教育改革をもとに、教育研究活動として、文部科学省の組織的な大学院教育改革推進プログラム「複眼的日本古代学研究の人材育成プログラム」(2008〜2010年度、大学院GP)に応募して採択され、大学院教育の組織的改革にも取り組んできました。GP終了後は、日本古代学教育研究センター(代表者は石川日出志教授)として活動しています。大学院GPは、終了後は大学の責任で継続する約束になっていますが、きわめて少なくなった予算のなかで、大学院教育改革の火を消さないようにがんばっています。
 なお、これまで主に新大型研究に依拠してきましたが、科学研究費(研究助成事業)の基盤研究A・B等とも有機的に連携して研究活動を維持しています。また、大学からも法人ポスドク・RAなどの支援を得ています。我々は、こうした支援を得ていることで研究活動を維持していると、肝に銘じてきました。

「古代学」関係の学問状況

 日本古代を対象とする学問といいましても、歴史学・考古学と文学(文芸学)とでは、その研究対象は重なりながらも、その学問方法は基本的に異なります。また、広義の歴史学としては括れるものの、文献(文字史料)を対象とする歴史学(狭義の歴史学)と「もの」を対象とする考古学(広義の歴史学に含まれる)とでは、相当な違いがあります。とりわけ研究が「個別分散化」している今日、「たこつぼ化」とも評される現象にもなっています。
 本来ならば人文学研究の精緻化は、学問の普遍性とは無関係ではないはずです。いや普遍性の研究ができないと、学問とはならないでしょう。個別性と、個別案件の普遍的性格を摘出する能力を身につけるには、学問対象と方法に対するそれなりの学修が必要であり、生易しいものではありません。
 これまで顕著な研究業績をあげた歴史研究者を例にとりますと、古代史の関係では、井上光貞さんは古代史と古代仏教に精通していましたし、石母田正さんは古代・中世史のほか文学関係の仕事もあります。2人は主たる領域の研究を深化させてエキスパートになっただけではなく、従たる領域の研究にも研究成果を出されています。実はこうした「複眼的」視野が、柔軟な研究に向かっていきます。
 ただし、今日ではこうした事例をだすまでもなく、歴史学では考古学の研究成果を参照しないと、歴史の全貌がわからなくなっています。また、『万葉集』の研究者にとって、「歌木簡」(万葉歌などを記載した木簡)の出現は、新しい研究スタンスが必要になってきたことをしめしています。歌詞自体の研究はいうまでもなく、出土した歌木簡の遺構・遺跡の分析を抜きにしては、歌われる場の理解ができなくなってきました。文字の釈読自体が、木簡の形状とは無関係ではなく、また廃棄状態への知識なくして、歌われた場の理解ができなくなってきたからです。言葉の分析だけでは、歌の真の意味への理解には到達しにくくなっています。文学作品が、時代背景を軽視して理解できるはずもありません。

古代学の総合化とは

 それぞれの学問分野の研究は、歴史的に形成されていますので、異分野への越境といっても難しいことはいうまでもありません。そこで我々は、学問の2分野から構成する3つのサブユニットの研究組織をつくり、古代学の総合化をはかる手立てとしました。
(1)列島文化の中心と周縁:考古学・文学
(2)支配・統治と文字使用:歴史学・考古学
(3)物語りと伝承:文学・歴史学

という編成です。
 こうした研究スタンスから、各人が主たる研究領域の研究に生かして研究を発表し、全体として日本古代学の「総合化」をはかるということになります。
 また、教育研究面では、修士課程の「総合史学研究」、博士課程の「文化継承学」の授業に、考古学・歴史学・文学の教員が積極的に参画し、院生だけではなく、教員自身も各分野の学修に加わります。正直にいって相応に勉強になっており、自らの学問内容が拡大していくことがしばしばです。
 考古学は「もの」を研究対象としており、これは「資源」です。本研究では、歴史の史・資料や文学作品を「文化資源」として捉え直し、「資源論」として日本古代学にアプローチするような研究手法を考えています。この面での理論化は一朝一夕ではできませんが、有効な方法論にしたいと考えています。

これまでの研究成果は

fl14_img01
「交響する古代3」会場風景
fl14_img02
電子顕微鏡など研究所の機材
fl14_img03
古代学研究所ホームページhttp://www.kisc.meiji.ac.jp/~meikodai/index.html
 日本古代学研究所としての研究は、日常的にはホームページ、『古代学研究所紀要』(現在は18号まで)、5か国・15大学からの参加を経て開催された国際学術研究会「交響する古代」(現在までに3回。今年度は第4回を10月31日〜11月2日に開催)、そして各種出版物によって、国内外に向けて発信しています。また、各ユニットの研究成果は、琉球の『球陽外巻 遺老説伝』データベース、墨書土器データベース・文字瓦データベース、鷹司本『令集解』の公開、『源氏物語聞録』翻刻テキストなど、すでに学界から学問研究に資するものとして高く評価されています。
 各メンバーの研究成果も、多岐にわたっています。研究論文のほか、著書も多く、その全貌はホームページでご覧いただきたいと思います(古代学研究所ホームページ:http://www.kisc.meiji.ac.jp/~meikodai/index.html)。また、日本古代学研究所の仕事とはいえませんが、『列島の古代史』(全8巻、岩波書店)は、同じような発想から企画されています。また、研究所メンバーが3名(石川・吉村・川尻)参加した、岩波新書の『シリーズ日本古代史』(全6巻)も古代通史として一定の評価を得ています。
 今後も旺盛に研究を進め、日本古代学の研究拠点として奮闘したいと思います。

研究所メンバーの紹介(○はプロジェクトリーダー)

●サブユニット1:石川日出志○・佐々木憲一・居駒永幸・永藤靖・高瀬克範
●サブユニット2: 吉村武彦○・加藤友康・氣賀澤保規・小笠原好彦・川尻秋生・山路直充
●サブユニット3: 牧野淳司○・上杉和彦・日向一雅

知の集積の関連記事

クリエイティブインタラクション研究所

2016.6.29

クリエイティブインタラクション研究所

  • 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科教授
    クリエイティブインタラクション研究所長
  • 荒川 薫
世界が注目する折紙工学~明治大学の折紙工学研究拠点~

2016.5.18

世界が注目する折紙工学~明治大学の折紙工学研究拠点~

  • 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授/先端数理科学インスティテュート所長 博士(工学)
  • 萩原 一郎
野生の科学研究所 – 科学を生命や人間に寄り添えるものに再生する –

2013.10.1

野生の科学研究所 – 科学を生命や人間に寄り添えるものに再生する –

  • 明治大学 野生の科学研究所 所長
  • 中沢 新一

Meiji.netとは

新聞広告連動企画

新着記事

2019.09.11

日本企業のアジア進出は、日本人のあり方を見直すきっかけになる

2019.09.04

グローバル化による「組織パラドックス」をマネジメントするには

2019.08.28

アフリカへの協力から日本経済の将来を考える

2019.08.21

地方自治の権限の拡大によって、現代型民主主義は進化する

2019.08.07

生物化学は、「より良く生きるための医療」に貢献する

人気記事ランキング

1

2019.09.11

日本企業のアジア進出は、日本人のあり方を見直すきっかけになる

2

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

3

2017.12.06

ネット依存によって、現代人の脳の構造が変わりつつある!?

4

2014.09.01

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

5

2019.04.24

子どもに会うための共同親権制度では本末転倒

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム