明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

水源の里の行事や活動を、ともに体験する学生たち – 地域に学生が入るだけでも少なからず変化があり、地域に活気をもたらすと感じています。 –

明治大学 文学部 心理社会学科 教授 杉山 光信

水源の里の行事や活動を、ともに体験する学生たち

連携テーマ
京都府 綾部市
水源の里でのフィールドワーク

Summary
● フィールドに出て社会の現実を体験し、学んだことを確かめる「学外実習」を実施。
● 全国にさきがけて「水源の里条例」を施行した京都府綾部市を実習地として、さまざまな行事に参加している。
● まずは外部の人間である学生が、現地の活動に参加し、交流を持つことに意義があると考えている。

学外実習の一環として限界集落を訪問

杉山教授
学外実習には、私の他にも担当教員が複数おり、商店街の活性化や東日本大震災の被災地復興支援など、それぞれに課題を抱えた地域の現場に行くことを課しています。「日本の中山間地域は程度の差こそあれ、同じような問題を抱えているという事実を想い、意識のどこかにしまっておいてもらいたい」と語る杉山教授。
 心理社会学科の現代社会学専攻では、学生がフィールドに出かけて、体験実習を行う「現代社会学実習」という科目を設けています。学外実習を実施する目的は、教室の中で学んだことを、キャンパスの外に出て社会の現実として体験し、確かめることにあります。
 私のゼミではここ数年、京都府綾部市のいわゆる限界集落をフィールドにしてきました。「NPO法人里山ねっと・あやべ」※1の活動拠点でもある里山交流研修センターを宿泊施設として活用させていただき、綾部市内の農村や里山でのボランティア活動やイベントへの参加、地元住民の方との交流に取り組んでいます。また、実習に先立ち「社会学演習」という科目では、まちづくりやコミュニティづくりに関する文献をゼミ生全員で読み、討論し、里山ねっと・あやべで進められている活動についても共通の理解を持つようにしています。さらに、これらの理解に必要な相互性論やソーシャル・キャピタル論もゼミの時間内に学習しています。

さまざまな集落の活動に参加し、まちづくりを考える

ムラの方に教わって、トチ餅づくりに参加。
ムラの方に教わって、トチ餅づくりに参加。
トラクターを使った農作業を体験させていただきました。
トラクターを使った農作業を体験させていただきました。
 綾部市は、前市長の四方八洲男氏によって、全国に先駆け「水源の里条例」※2を施行したことで知られる自治体です。また、過疎高齢化の課題解決に向けた活動を、里山ねっと・あやべが担うことで、集落やその住民に活力をもたらしていることでも注目されています。
 私たちが、初めて綾部を訪れた2006年から数年は里山ねっと・あやべのプログラムに乗って実習を行っていました。その間に、私自身が「里山交流大学」※3の1期生として学ぶ機会に恵まれたことで、綾部近隣に知己を得ることができ、以後は知り合った人々を頼って毎年新たな地区を訪れ、その地区独自の活動に参加しつつ、まちづくりや地域活性化について考えるということに取り組んでいます。
 例えば、2010年に訪れた志賀郷(しがさと)地区では、江戸時代から伝わる「志賀郷七不思議」のすべてを、自治会役員と郷土史家の方々に案内していただき、地域伝承を聞き取りました。この七不思議を巡るツアーはその後、地域おこしの企画として実行され、今では「七不思議神事ミニツアー」として来場者の数を増やしています。
 2011年の上林(かんばやし)地区では、5世帯7名ほどの古屋という小さな集落でトチの実拾いとその加工作業を体験しました。古屋の集落のさらに奥、険しい山の中にはトチの大木からなる自然林があります。以前は集落の人たちで集めに行って、その実でトチ餅をつくっていたそうですが、斜面もきつく、行くこともままならなくなってシカやイノシシの格好の餌になっていました。これを地域資源として再生させるため、サポーターやボランティアの力を借りて、林に網を張って食害からトチの実を守り、9月にはその実を拾って、トチ餅やあられなどをつくりはじめたのです。これらは現在、この地区の特産物として、近隣の温泉施設や阪急デパートのカタログなどで販売されています。
 また、昨年の白道路(はそうじ)地区では、秋の祭りに合わせて訪問し、祭りの準備のお手伝いと「石童丸物語」の芝居を演じる機会までいただきました。ゼミ生も最初のうちこそ、しり込みしていましたが、これも経験と取り組んでいるうちに気持ちも入り、お祭りを盛り上げる役目をしっかりと果たすことができたように思います。
 お祭りも、昔からの風習として行われてきたものが、今は担い手がいなくなり、維持できないという話があちこちにあります。そうした伝統を継承するためにも、外部の人間の力が必要とされています。

人々の力で活気をとりもどしつつある地域

 綾部市では、この他にも共有林に桜の木を植えて、お花見の季節に人を呼ぶことに成功した例や、山城の跡や峠道などを古文書と航空写真を照らし合わせて探検する催しもあり、また、竹が伸び放題になっていた里山の竹を伐採して竹炭にしたり、消えかけた古道を整備し直したりといったように、実にさまざまな地域資源の掘り起こしが行われています。
 この地域はなぜか国際的なことも特徴で、上林で農家民泊を行っている80代の女性のところにはアメリカやイタリアから女性客が一人で泊まりにきます。主は英語もイタリア語も話さないけれど、コミュニケーションは十分に取れている様子で、お互いに満足しています。志賀郷にはスペインでフラメンコの修業をしてきた方が教室を開き、グループで講演をしていたり、白道路の女性は1年の半分はオーストラリアで仕事をして、オーストラリアの高校生を集落に連れてきたりしています。広く他者とかかわることで視野が広がり、都市の人たちとの交流も盛んになっていくのだろうと思います。

日本の都市以外の地域を知ることで、日本を知る

「石童丸物語」の芝居を演じたゼミの学生たち。
「石童丸物語」の芝居を演じたゼミの学生たち。
 学外実習では、まずは外部の人間である学生が活動に参加し、交流を持つことに意義があると考えています。都会で生まれ、都会に育った学生にとって、過疎高齢化は知らないままで一生を過ごすこともできる問題です。しかし、日本全体から若い人の数が急激に減っていることで、例えば首都圏でも1980年代に開発された住宅地は、高齢化が一気に進んでいます。その意味では都市にも限界集落はたくさんあり、そこまでつなげて考えたとき、この問題は他人事ではなくなります。
 受け入れ地域の方々も、普段はあまり接点のない若者たちがやってきて、一緒に活動することを楽しみにしてくださっています。また、学生も高齢者の方々と親しく話した経験はそう多くないはずですが、普段教室ではおとなしい学生がお年寄りと気さくに話していたり、意外な一面を見ることも実習の面白さです。
 実習の最後には体験発表会を行います。3泊4日の体験で何を感じたか、自分なりにこうしたらいいというアイデアなどを村人の前で発表するのですが、思っている以上にきちんとした意見を述べる姿を見ていると、体験が考えるきっかけになっているのだと実感します。
 学生には、日本の都市以外の地域が、今現実にどうなっているのかを知り、現実にその土地を守ろうと活動している人々とわずかな日数でも一緒に動いてみて感じる機会を大切にしてほしいと願っています。

※1 2000年発足。里山・農村部の魅力を市内外に情報発信するため、綾部里山交流大学や森林ボランティア、さまざまな体験塾、茶摘み、農家民宿紹介、田舎暮らし相談などを行っている。
※2 集落自体の存続が危機的状況に直面している集落を「水源の里」と位置づけ、過疎化に歯止めをかけ、集落の振興と活性化を図るため、平成18年12月に制定された。
※3 NPO法人里山ねっと・あやべを中心に、産学官が連携して、里山ビジネス、地域ビジネス、社会起業、まちづくりなどを志す人財を育成する講座。

明治大学の地域連携とまちづくりの関連記事

産学官連携で次世代素材「漆」を身近な製品に応用 – 漆の可能性をひろげるため、地元川崎の企業と生活の中の新しい漆器の開発に取り組んでいます。 –

2014.3.1

産学官連携で次世代素材「漆」を身近な製品に応用 – 漆の可能性をひろげるため、地元川崎…

  • 明治大学 理工学部 応用化学科 教授 工学博士
  • 宮腰 哲雄

Meiji.netとは

新聞広告連動企画

新着記事

2019.07.17

フランス人はなぜデモを続けるのか

2019.07.10

男か女かハッキリしたがる/させたがる不思議

2019.07.03

遺伝子組み換えが怖いのは、目先の利益で行っていること

2019.06.26

人から、メタボやアレルギー性疾患がなくなる!?

2019.06.19

社会凝集力は偏見も生む。自分をもっと自由に解放してみよう!!

人気記事ランキング

1

2019.07.17

フランス人はなぜデモを続けるのか

2

2019.07.10

男か女かハッキリしたがる/させたがる不思議

3

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

4

2014.09.01

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

5

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム