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社会の中の建築のあり方を考える。出発点は地域の資源とニーズです – 設計教育のプロセスの中でも、さまざまなかたちで地域との連携を試みています。 –

明治大学 理工学部 建築学科 教授 田中 友章

社会の中の建築のあり方を考える。出発点は地域の資源とニーズです

連携テーマ
神奈川県 川崎市
都市計画・まちづくり

Summary
● 建築家という職能には、本来的に場所に根ざすことが求められている。よって、地域と連携することは必然である。
● 教育においても、社会との接点を意識できるよう、以前から地域と連携した授業を実施している。
● 全国で活躍する卒業生とのつながりも活かして地域連携を進めていきたい。

川崎市を中心とした地域で、まちづくりを支援

設計に取り組む際には、必ず敷地に足を運びます。その場所で得られる情報に加えて、行政や市民の方々からニーズや考え方を知ることができます。連携・協力に関わる基本協定を締結している川崎市とは、これまでもさまざまなレベルで継続的な取り組みを行ってきました。社会との接点を教育の場に盛り込めるのは、関係者の皆さんの協力のおかげです。今後もこうした関係を大切にしたいと考えています。
設計に取り組む際には、必ず敷地に足を運びます。その場所で得られる情報に加えて、行政や市民の方々からニーズや考え方を知ることができます。連携・協力に関わる基本協定を締結している川崎市とは、これまでもさまざまなレベルで継続的な取り組みを行ってきました。社会との接点を教育の場に盛り込めるのは、関係者の皆さんの協力のおかげです。今後もこうした関係を大切にしたいと考えています。
 建築は、特定の敷地の上に建ち、その地域との関係を結びながら成立する社会的存在でもあります。そのため、都市機能や防災、環境への配慮、地域の文脈や場所性と切り離して考えることができない分野と言えます。また、時代の要請や社会のニーズに応えることも大切です。よって、その土地の歴史的な成り立ちや現状などを読み解くことはもちろん、まちで暮らす人々の中に入り、その声を聴くことは、建築デザインに多くの示唆を与えてくれます。
 こうして考えると、その場所に根ざす建築というものを扱う職能には、地域と深く連携することが織り込まれていることがわかります。
 特に、近年は各地で住民主体のまちづくりが盛んになり、行政と住民・NPOなどによる新しいパートナーシップが生まれています。そうした場で、建築やまちづくりに関する専門的な知見やツールを使ってサポートを行うことは、地域社会の一員である大学が積極的に果たすべき役割と言えるでしょう。
 私自身も、さまざまな地域でそうした支援を実践してきました。例えば、川崎市幸区の地元住民と行政による「夢見ヶ崎公園検討協議会」では、公園の魅力を再整備する事業に協力しました。この公園は多摩丘陵の末端部にあたる「加瀬山」と呼ばれる見晴らしの良い場所に位置し、幸区にとっては「緑の島」のような存在ですが、斜面地でアクセスや園内のバリアフリーに難点があり、動物園や歴史・緑環境などの資源を活用できていませんでした。そこで、その資源を有効に連携させ機能させるために、計画づくりから整備事業の進行管理に協力しました。同じく川崎市高津区では「エコシティたかつ」の活動を支援しています。これは、持続可能な循環型都市構造の再生と創造をめざして、多様な主体が協力し、総合的かつ多面的に進めている取り組みです。従来、都市計画は地図上で目的合理的に計画し、実施してきましたが、近年の気候変動にともなう局地的豪雨の多発などによって、現行の土地利用や計画に課題が生じている例が少なくありません。そこでランドスケープや生物多様性を重視し、適応策としての防災まちづくりを視野にいれながら、新しいコミュニティづくりや敷地計画のあり方を考えようとしています。幸区、高津区の取り組みにおいては、デジタル地図データから地形模型を作成するなどの支援をしました。
 また、渋谷区では、「渋谷駅中心地区デザイン会議」に委員として関わっています。渋谷駅周辺の大規模再開発事業が連鎖的に進行するのに先立ち、各街区のデザインのレビューや改善のための助言、街区間の公共空間のデザイン調整などを行っています。その過程では、国道246号線下に整備された地下広場からの出入口のデザインを、大学院生とともに案を検討して、設計助言を行いました。この上屋は先日完成し、年明けから共用開始されています。

学生による設計計画とプレゼンテーション

「より具体的なディスカッションのため、地形の立体模型などを用意することも。専門的なスキルやツールを社会に提供したい」と語る田中教授。
「より具体的なディスカッションのため、地形の立体模型などを用意することも。専門的なスキルやツールを社会に提供したい」と語る田中教授。
「カワサキシティ 日本を牽引する街」の開会式に出席した田中教授(左)と作品が展示された箱崎君(中)、建築学科山本教授(右)。
「カワサキシティ 日本を牽引する街」の開会式に出席した田中教授(左)と作品が展示された箱崎君(中)、建築学科山本教授(右)。
 今後人口が減少していく日本社会では、画一的な建築物ではなく、その場所に合わせて「あつらえた建築」が必要になると考え、学生の教育においても、社会との接点を意識しながら学べるように工夫をしています。具体的には学部3年生の「計画・設計スタジオ1」という科目で、2007年から毎年、実際の地域特性を生かした公共的性格をもつ建築物を設計するという課題を課しています。優秀作品は、毎年夏、生田キャンパスの図書館で展示するとともに、行政長や地域のまちづくり協議会などに対して、学生自身がプレゼンテーションする機会を作っています。
 学生が演習課題で設計した作品を外部に発表するという取り組みは、私をはじめ、「計画・設計スタジオ1」を担当する教員が、行政側に働きかけて実現したものがほとんどでしたが、2013年は趣が異なりました。
 2012年の図書館での展示を、たまたま川崎市市民ミュージアムの学芸員の方が観覧してくださり、2013年秋のミュージアム開館25周年記念特別展として行われる「カワサキ・シティ:日本を牽引する街」という展覧会に、学生が考える「都市川崎の未来像」を展示したいというご依頼をいただきました。そこで科目の教育目標とこの依頼を両立させる課題を設定し、授業の最終講評会に市民ミュージアムの館長と学芸員の方がいらして、企画展にふさわしいという基準で作品を選び、展示される運びとなりました。また、会期中には出展した学生自らが作品を語る「Studentsトーク」も開催されました。
 学生にとって、建築を専門としない方が作品をどう捉えるのか、行政はどのように評価するかを知ることは、地域と連携した教育ではじめて可能となる体験です。一方、行政や市民の方にとっても、自らの地域の課題や資源を基にした新鮮な提案によって、まちづくりに新しい視点が得られるという意義があると考えています。このような理由で、これまで7年間取り組みを継続して行っています。

より広い地域へ、連携の輪を広げたい

「計画・設計スタジオ1」では学生作品をSTUDIO WORKSという冊子にまとめている。2013年で7冊目を数える。
「計画・設計スタジオ1」では学生作品をSTUDIO WORKSという冊子にまとめている。2013年で7冊目を数える。
 また、地域連携の一例として、研究室に在籍する学生や大学院生が卒業設計を自身の出身地に対して行った提案があります。ある学生は自分の幼いころに賑わっていた内港が漁港としての役割を終えて閑散としていることを憂い、内港の「再生」をテーマにした教育学習・情報発信施設を設計しました。地域の課題を拾い上げて解決の道を探った力作は、全国の学生が参加する「歴史的空間再編コンペティション2013」でも高く評価され、縁あって市長にプレゼンテーションする機会を得ました。
 この例のように、学内にとどまらず社会での活動に自らの研究や設計を接続していくことは社会の多面的な価値軸に触れ、自らの作品やめざす職能像を考えるキッカケになります。地方にはそのまちの課題に対して、財政、政策、計画など既存の行政的な枠組みから離れて、別の視点からの発想を知りたいという需要がまだまだたくさんあるのではと思います。その点、明治大学は伝統的に全国から学生が集まり、卒業後、それぞれの地元で活躍しているケースも多く、現場で課題解決の道を模索している本学のOBOGと連携していくことも、今後は視野に入れていきたいと思います。
 建築は、奇をてらった提案や独りよがりのデザインだけをやっていてはいけません。その地域の課題や資源を適確に捉え、現在の社会のニーズに照らし合わせて組み立て直した上で、具体のかたちや空間のある魅力的な建築の提案にまとめることが求められています。そうした作業を一連のプロセスの中でしっかりと積み上げ、具体的な形で地域に還元すること、それが大事で、そのようなことができる人材を継続して育成したいと考えています。

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