明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

継続的なフィールドワークをもとに、地域企業の活性化を支援 – 企業の要望に応えていく中で、新たな研究の観点が見つかることもあります –

明治大学 政治経済学部 教授 森下 正

継続的なフィールドワークをもとに、地域企業の活性化を支援

連携テーマ
新潟県 燕市・三条市ほか
中小企業の活性化

Summary
● 地域の時代を切り拓く産業とは何か、どのような人々が地域産業を動かすのか、などを研究。
● さまざまな企業を訪問する中で得た情報を、地域企業の活性化に活かしていくことが研究者の使命。
● 企業の活性化はオーソドックス。一発逆転はなく、一つひとつ課題を解決していくのみ。

全国の企業とのつながりを得たプロジェクト

「断らないことをモットーに続けてきて今に至る」と語る森下教授。「無理難題と思われることも、できないと言ってしまえばそこで終わり」とも。
「断らないことをモットーに続けてきて今に至る」と語る森下教授。「無理難題と思われることも、できないと言ってしまえばそこで終わり」とも。
 大学時代から中小企業を専門に研究してきました。工業団地、卸売団地などの企業群研究にはじまり、以来ずっと現場に入って実際の企業を見ながらテーマを追うフィールドワーク重視のスタンスで来ています。主な目的は中小企業の活性化ですが、研究対象としては産業クラスター、地場産業、商店街や問屋街なども含めて、地域の時代を切り拓く産業とは何か、どのような人々が地域産業を動かすのか、などの解明にも力を入れています。
 なかでも、文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業として2002年から8年間にわたって取り組んだ「地域産業発展のための企業家、実業家、行政マン等育成のための研究プロジェクト」では、北海道は旭川から、宮崎県の延岡まで、全国の産業集積地に出向き、企業のヒアリング調査などフィールドワークを集中的に行うことができました。その調査研究を通して、各地の中小企業支援機関や企業に数多くのつながりが生まれ、以降も、定期的に地域の勉強会に参加したり、講演会を開いたりといった関係が続いています。
 新潟県の燕三条地域での地場産業振興センターとの産学官連携の取り組みは、すでに10年近くにわたります。燕三条との関わりは2004年に地場産業調査を行い、その成果を還元するため、現地での研究会を始めたことがきっかけでした。その後も「燕三条地域経営者技術研究会」として新製品・技術開発、経営体質改善をめざす企業経営者や担当者を対象に、隔月開催で研究会を実施しています。
 また例えば、埼玉県狭山市の「狭山若手経営者研究会」は現在も毎月1回行っており、すでに150回以上を数えています。静岡県浜松市でも15年ほど前からずっと継続して現地を訪問しており、群馬県桐生市と山梨県富士吉田市は隔年で訪問しています。
 こうして長期にわたって関係を構築することで、ようやく見えてくる企業の本音や課題というものがあります。また、フィールドワークによる情報収集からは、世の中に意識されていない課題が浮かびあがることもあります。現実の方が、複雑で動きが速く、世の中のイメージと実状が全く異なっていることも少なくありません。
 最近では、日本の中小企業が海外に進出しないのはなぜか? という問いを見かけますが、これも簡単に言えば日本にいながらにしての国際化が進んでいるからであって、進出する必要性が低いからなのです。しかし、海外市場をめざさないのは企業努力が足りないという風に捉えられていたりします。あるいは産業廃棄物処理業も、以前のイメージとは大きく様変わりしています。化学廃棄物や医療廃棄物などの特殊な処理や、資源を使い切るためのリサイクル技術、また処理コストの削減のための技術開発などが進み、今や非常に技術志向の強いハイテク産業になっています。

リーマンショックを乗り越える力に

学生には社会人としてのマナーも教えています。企業に対する質問の質を上げるには時間がかかりますが、4年次になれば立派なものです。
学生には社会人としてのマナーも教えています。企業に対する質問の質を上げるには時間がかかりますが、4年次になれば立派なものです。
秩父・狭山交流会風景
秩父・狭山交流会風景
 このように、現地に入り、研究対象としてさまざまな企業を訪問する中で得た情報を、地域企業の活性化に活かしていくことが、私にとっての地域連携のかたちと言えるでしょう。こうした密接な関係の中では、企業が現に今、抱えている問題を直接に聞きだすことができますし、その課題に合わせて、適した専門分野を持つ研究者や、類似した課題を解決した事例を持つ企業の経営者を紹介することなどもできます。各地の勉強会の中で生きた事例を知りたいという要望があれば、企業視察にも出かけ、地域間の交流を実施することもあります。都市圏や地方を問わず、厳しい環境下でも存続している企業には必ず学ぶべき点があるものです。
 リーマンショック以後、日本経済が大幅に減速する中で、関係のある企業が1社も倒産しなかったことは、こうした活動を続けてきた成果だと、いささかの自負もあります。勉強会などで情報を提供してきたことが、結果として、企業のかじ取りに役立ったのだとすれば、研究にご協力いただいた企業への恩返しにもなったのではないでしょうか。
 学生たちにも、良く話しているのですが、私たちの研究は、対象としている中小企業あるいは企業集団にとって役に立つものでなければならないと思っています。論文もしくは報告書という最終的な成果物だけでは伝わらない部分もあり、報告会を行うなど、あくまで人と人との接点で情報が生かされるということを実感しています。

中小企業を支える人材の育成

 学生の調査研究活動にも少し触れておきましょう。私のゼミでは学生たちもフィールドワークを基にした研究を行っており、ゼミ全体としては、一昨年は福井、昨年は掛川に赴き、多くの企業や経営者からヒアリングする機会をいただきました。ゼミ生の中には年間50社近い企業を調査する学生もいます。そのようにして2年間きちんと勉強すると、学生でも、会社の経営方針の良し悪しや問題点などがすぐに見えるようになります。社会と接点を持つ実践的な活動ですので緊張感もあり、学生は大変だと思いますが、成長する実感があるため意欲は高く、また、公開を前提とする研究報告書や卒業論文を作成しますので、論理力やプレゼンテーション力が身に付くなどのメリットがあります。
 調査先の企業に就職する学生もいます。その企業の内面まで知った上で惚れ込んで就職できるのは、今の時代、幸せなことではないでしょうか。

企業の活性化は、問題を一つずつ解決していくこと

調査に協力していただいた企業を招待し、学生も交えて現地交流会を開催するようにしています。地元の企業同士の名刺交換が始まったり、輪がさらに広がります。
調査に協力していただいた企業を招待し、学生も交えて現地交流会を開催するようにしています。地元の企業同士の名刺交換が始まったり、輪がさらに広がります。
 企業の活性化は考え方としては非常にオーソドックスです。一発逆転はあり得ません。企業の問題点とは、生活習慣病と同じで、ゆっくり時間をかけて染みついていくので、改善するのにも、やはり時間がかかります。インタビュー調査やアンケートの結果をもとに、経営理念はあるか、目標実現レベルが高いか低いか、従業員に理念や目標が浸透しているかなどの観点から分析し、業種別、社歴別、経営者のプロフィールや企業体質に合わせたビジョンづくりに参加することもあります。
 難しいのは、考え方や仕組みを実行すれば経営にとって明らかに良いとわかっていながら、実行できていない企業や経営者です。どうすれば彼らは導入を決断し、社内に根付かせることができるのか。知識は吸収しているのに、行動できない、導入できない。そういう人たちの背中をポンと押してあげることが、私の仕事なのだろうと思っています。

明治大学の地域連携とまちづくりの関連記事

産学官連携で次世代素材「漆」を身近な製品に応用 – 漆の可能性をひろげるため、地元川崎の企業と生活の中の新しい漆器の開発に取り組んでいます。 –

2014.3.1

産学官連携で次世代素材「漆」を身近な製品に応用 – 漆の可能性をひろげるため、地元川崎…

  • 明治大学 理工学部 応用化学科 教授 工学博士
  • 宮腰 哲雄

Meiji.netとは

新聞広告連動企画

新着記事

2019.07.17

フランス人はなぜデモを続けるのか

2019.07.10

男か女かハッキリしたがる/させたがる不思議

2019.07.03

遺伝子組み換えが怖いのは、目先の利益で行っていること

2019.06.26

人から、メタボやアレルギー性疾患がなくなる!?

2019.06.19

社会凝集力は偏見も生む。自分をもっと自由に解放してみよう!!

人気記事ランキング

1

2019.07.17

フランス人はなぜデモを続けるのか

2

2019.07.10

男か女かハッキリしたがる/させたがる不思議

3

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

4

2014.09.01

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

5

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム