明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

データから答えを導く力、統計学 – 統計学は経済や物理、生物、医療、防災など広い分野の研究に役立てられています。 –

明治大学 総合数理学部 現象数理学科 准教授 中村 和幸

データから答えを導く力、統計学

●自然科学への応用を中心に、統計学の力で未来を予測する方法を研究中。
●金融市場の急激な変化を検知することに成功。将来は情報をもとにパニックを未然に防ぐことを目指す。
●ビッグデータを有効に活用するため、統計理論を新たに構築することにも挑んでいる。

時空間・時系列データの分析

fl23_img01
「ベイズ統計学はデータの確からしさを自然に表現できる統計学です」と語る中村准教授。
 社会では大量のデータが集まり、記録されるようになっています。しかし、その大量のデータの取り扱いはまだまだ未発展の部分があり、せっかく取ったデータが十分に生かされていません。私の研究では、こうした多種多様なデータから何か新しい情報を見つけたり、未来を予測したりする方法を考えるとともに、実際に多様な分野の研究者と共同研究を行い、現実問題への応用を中心にして研究を進めています。
 特に、気象情報のようにセンサーやカメラでとらえた時空間データ、株価・為替のような刻々と変動する時系列データなどの分析には、私のテーマの一つである「ベイズ統計学」(※1)という方法が有効であり、これまでに何が起き、そこに隠れている情報は何か、そして将来何が起こるのかを読み取るため、さまざまな分野の研究者とともに模索しています。
 最近では生物学の研究者との共同研究により、細胞顕微画像データから、細胞膜の固さを、時間を追って推定するという研究をしました。また、1993年の北海道南西沖地震による津波の潮位計データをもとに、津波シミュレーションの再現に影響のある海底の地形を推定するという研究を行いました。津波は沖では速く、沿岸部ではスピードが遅くなります。つまり波は水深が深いところでは速く伝わり、浅いところでは遅くなるため、海底の地形が正確にわかれば、津波の到達時間や様子がより高い精度で予測できるわけです。これは、海洋学的にも役立つ情報であり、例えば海流のシミュレーションやそれにもとづいて遭難した船がどう流されるかを推定するときなどにも活用できます。
 また、その隣接分野として私の研究室で取り組んでいるのは、津波が陸上を浸水していく様子の分析です。津波が起きたとき、どこに海水がくるのかを、できるだけ正確に、なるべく素早く知らせることが目標です。この研究では、東日本大震災の津波痕跡の公開データを使っています。これらは、現時点のデータ量ではビッグデータとは呼べません。しかし、東日本大震災では大量に津波の映像が記録され、そこには痕跡以上の情報が含まれているため、その動画データを使って解析していくことが次の課題です。解析しようとする現象に対して、データが大きすぎる可能性もあるため、慎重に扱う必要があると思っています。

 

(※1)ベイズ統計学
「ベイズの定理」を使って、データの背後にある隠れた情報・不確かな現象の確率を計算する手法。古典的統計学においては無作為抽出による質の高いサンプルが必要であったり、既知の知見を組み込むのが難しかったりするが、ベイズ統計を用いればこれらの問題が解決され、少ないサンプルや大量でも質の揃っていないサンプルでの推論にも妥当性を与えることができる。スパムメールフィルタや携帯電話の音声認識、日本語入力の予測変換などもベイズ統計の身近な活用例である。

大量のデータから価値ある情報を

fl23_img02
fl23_img03
地盤工学の問題における共同研究。土中の直接計測が難しい量もデータ同化の手法を使うと予測精度が高まることが立証されました。
 経済データでは為替の取引データから、自動的に急激な変動をとらえ、安定か不安定かの指標を示すことに取り組んでいます。研究の背景には、近年、株式や為替が非常に短い間隔で取引されるようになり、今まで以上に動きが分かりづらくなっているということがあります。このような市場には、大量の取引データがあり、そこにはたくさんの小さな価格変動が含まれます。この多量の小さな変動のうち、どれがこの先大きな影響を及ぼす変化になるか、あるいはならないかを確率的に示し、金融市場がパニックになる前に、国などの機関が有効な対策を立てるためのツールにすることが目標です。この研究では実際に、東日本大震災発生直後の為替市場が急激に円安に動いたことから、データと仮説から相場が不安定になっていることをいち早く検出することができました。その後も不安定な状態が続き、今度は急激な円高になりました。この研究には大量のリアルタイムデータをオンラインで処理する必要があり、これはまさにビッグデータ解析と呼べる性格のものです。これまでの解析ツールは「そんなに大量のデータはとれない」という前提でつくられてきましたが、これからはそれが可能になったという意味で、新しい発想の技術が求められているジャンルでもあります。

ビッグデータを支えている数理

 「ベイズ統計学」と並んで、もうひとつの私のキーワードである「データ同化」(※2)は気象学から派生した技術で、実世界のデータと計算機上のシミュレーションデータとのバランスを数学的な方法でとることで、シミュレーション結果の精度をできる限り高める方法です。
 地盤工学の問題における共同研究では、このデータ同化の手法を使って将来の地盤沈下の予測を行いました。これを発展させていくと、例えば高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化の問題に対して、橋や高速道路がどこから先に限界を迎えるかを確率的に予測し、メンテナンスの優先順位の目安を確率として情報提供できると考えています。将来どれがいつ使用できなくなるか、といったことは完全に断定することはできないため、データ分析と数理を使って正確さは上げつつも、シナリオ別の確率として情報提供するのです。その際に、意思決定するのはあくまで人間です。コストという観点から判断し、やるか、やらないかを決めるのは人の仕事ですが、そこに私たちが取り組んでいる予測を生かしてもらう、社会との接点はそういうところにあるだろうと考えています。
 ビジネスの現場で言えば、ビッグデータはかなり使い道があると思っています。情報がたくさんあればそれだけ競争優位だということは間違いありません。この先データは貯まる一方ですし、貯めるためのコストも下がり続けます。ただし、それがどう生かされるのかという啓蒙はまだまだで、ビッグデータがどのような数理で支えられているか、実際の分析のどこに効いているのか、そういう理解をしっかり持った人が一定数以上増えることが、この分野の発展のカギを握るはずです。
 明治大学のリバティアカデミーで行っている社会人向け講座でもビッグデータについて講義をしていますが、ビッグデータが単なるバズワードで終わらないために、微力ながら貢献したいと思っています。

(※2)データ同化
コンピュータシミュレーションに実際の観測・計測データを取り入れる手法。数値シミュレーションは初期条件、境界条件、パラメータなどの値の決め方によってさまざまなシナリオが現れてしまうため、実際のデータを取り入れることでシミュレーションの精度・性能を改善することが目的。近年、さまざまな研究機関・大学にデータ同化の研究チームやセンターができたり、研究プロジェクトに用いられたりするなどしており、シミュレーション科学の分野で注目を浴びている。

理論研究によって近道を示す

 ビッグデータを有効活用するために、データ同化の方法を統計学の理論面からつくり直すことも課題です。それによって現状のデータ同化にフィードバックでき、より使いやすいものにしようと考えています。現場の方の努力の積み重ねの結果作られた解析方法や知見について、数理的な見方から整理して、「もっと近道があること」や「見落としている新しい解決法があること」を示すのは、私たち統計学を含む数理科学の研究者が意識的に取り組むべき仕事です。例えば実際の気象予測は気象衛星や測候所などから逐次観測データが集まってくる超ビッグデータの世界です。そうした環境でもきちんと分析できる方法を考えながら、世の中にあふれる大量のデータを分析して、そこに隠された情報や、将来の見通し、有益な何かを発見すること。それが私の研究です。

ビッグデータ時代のビジネス改革の関連記事

もっと速く、もっと効率の良いコンピューティング環境へ。- 目の前のプログラムを速く動かす環境や手法づくりが一貫したテーマ。-

2013.12.1

もっと速く、もっと効率の良いコンピューティング環境へ。- 目の前のプログラムを速く動かす環…

  • 明治大学 総合数理学部 ネットワークデザイン学科 准教授
  • 秋岡 明香
ビッグデータの活用に向けて秘匿化技術の確立に取り組む – ビッグデータの活用には賛成です。ただし安全管理を徹底することが大前提になります。 –

2013.12.1

ビッグデータの活用に向けて秘匿化技術の確立に取り組む – ビッグデータの活用には賛成で…

  • 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 教授
  • 菊池 浩明

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

新聞広告連動企画

新着記事

2019.11.13

音声合成技術によって「人間を超える声」が生まれる!?

2019.11.06

SDGsは、企業の社会における存在意義を問うもの

2019.10.30

再生医療の進歩にも繋がる、独自の人工骨開発技術がある

2019.10.23

渋沢栄一に学ぶ、多様な立場、多様な経験を活かす生き方

2019.10.16

増える、ひとり暮らしの高齢者が楽しい生活をおくるには

人気記事ランキング

1

2019.11.13

音声合成技術によって「人間を超える声」が生まれる!?

2

2019.11.06

SDGsは、企業の社会における存在意義を問うもの

3

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

4

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

5

2017.03.15

「沖縄振興予算」という呼称が、誤解を招いている

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム