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データに強く、マーケティングセンスある 人材の確保が鍵。- データの綿密な解析と、人間を洞察する観察と。その両立が求められているのが現代です。-

明治大学 商学部 商学科 准教授 水野 誠

データに強く、マーケティングセンスある 人材の確保が鍵

●ビッグデータで、マーケティングリサーチの手法は大きく変わるはず。
●本人も意識していないニーズを商品開発に役立てるには質的分析も欠かせない。
●大量のデータをシステムで処理すれば終わりではなく、有益な情報を得るには人の視点が必要。

ブームはネーミングではじまる

 ビッグデータは最近の注目ワードですが、企業にとってデータの活用は以前から大きな課題でした。当時広告業界にいた私自身、80年代頃からTV視聴率とPOSデータを結び付け、売上高への影響を分析するような仕事をしていました。また、クレジットカード業界や流通業界でも、顧客の動向
を示すデータが蓄積され、リスク管理などに活用されていました。もちろん今からみると、さほどビッグではないデータではありますが、データから何か情報を得ることについては、企業には長年の積み重ねがあります。
 変化したのはコンピューティングパワーと、データ保存にかかるコストです。これまでは技術的にもコスト的にもできなかったことが、安く、速くできるようになった。大量すぎて捨てざるを得なかったデータを活用できるようになったために、そこからビジネスに役立つ知見を得ようといった動きが、今のブームを呼んだと言えるでしょう。
 ブームというものに共通することですが、ビッグデータの場合も、突然その時代がやってきたのではなく、連続的に増えていたデータに対して、ビッグデータという分かりやすいネーミングがされたことで一気に注目を浴びるようになったわけです。

マーケティングの世界に新しい知が流入?

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「ビッグデータでなければ扱うことができない研究や分析には、いますぐ役に立つかはわからないが、興味深いものが多い」と語る水野准教授。
 もちろんビッグデータがマーケティングリサーチの手法に与える影響は大きいと思います。例えば、POSデータやカードの利用履歴、ウェブサイトのアクセス履歴や検索履歴、購買記録や申し込み記録をはじめ、TwitterやFacebookなどソーシャルメディアへの書き込み内容といった大量のデータから、一人ひとりの関心領域やどんな人間関係の中にあるかなどが、従来の質問票やWebによるアンケート調査に頼ることなく手に入るわけですから。
 これまでマーケットリサーチ会社やシンクタンクが使っていた分析ツールでは、これだけ大量のデータを扱うことは難しく、既にコンピュータサイエンスや物理学の専門家たちを擁するマーケティング会社も現れています。一説によるとアメリカではNASAのロケットサイエンティストがアポロ計画の終了とともにウォール街に流れ、さらにリーマンショック以降は他の領域へ向かっていて、そのひとつがマーケティング業界だという話もあります。今後、マーケティングの世界のプレイヤーが様変わりする可能性は多いにあります。
 最近の例ではRTB(リアルタイムビッディング)が典型かもしれません。RTBはオンライン広告の入札の仕組みです。ページビューが発生するたびに、その人の購買履歴や行動の特性に合う広告主の入札によって価格が決まるわけですが、その価格付けは1/1000秒の単位で行われ、もはや人間には不可視の世界になっています。一方でTVCFやポスターのようなビジュアルとコピーで説得するタイプの広告も、役割が終わったわけではなく、その両者を含めた、あるいはもっと違ったタイプの手法も含めたコミュニケーションの多様化がますます進んでいくでしょう。

「エスノグラフィ」など質的分析にも注目

 大量データの分析とは正反対の位置にありながら、近年企業の関心を集めているマーケティング手法のひとつが「行動観察」や「エスノグラフィ」といった質的分析です。ビッグデータからは対象の属性や行動の履歴、購買履歴などはわかっても、そのときその人が何を考えて電車に乗り、なぜ店に立ち寄って、なぜAとBの商品のどちらを買おうと迷ったかまではわかりません。また、生活者の潜在的なニーズといった、まだ本人も気付いていない需要を探ることも難しいでしょう。人間同士の共感性をもとに人間をトータルに理解するエスノグラフィには、例えばあるユーザを1日かけて尾行し、行動をつぶさに観察するといった時間と手間、スキルが必要です。それでも、製品の使い勝手の向上や新しい製品コンセプトの創出などに役立つとして、企業が注目する価値があるということは知っておいたほうがいいと思います。

Twitterの影響力ある発言を探せ

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iPhone/Androidに関するツイートの伝播を分析した図。ソーシャルメディア上の情報伝播を理解することは、現代のマーケッターにとって非常に重要である。
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ビッグデータの「ブーム」をポジティブに見ればデータ解析の価値を再認識させる意味があると思います。
 私自身のビッグデータとのかかわりでは、1つには、Twitter 上でのインフルエンサー(影響力の強いつぶやきをする人)の研究があります。具体的には、iPhone あるいは Android に関する日本語のツイートを約半年にわたって収集し、一定の期間を通して被RT数が多いユーザをインフルエンサー候補として、彼らを取り巻くネットワークの特性を分析したり、彼らのうち本当に周囲の発言に影響を与えているのは何%ぐらいか、といった研究を進めてきました。2013年は富山で開かれた人工知能学会(JSAI)の全国大会と、長崎で開かれた日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)の研究大会に参加し、一連の共同研究の成果を発表しています。現在得ている結果からは、被RT数の多いユーザ(インフルエンサー候補)で、フォロワーに対して発言誘発へのインフルエンスを持つ者は一定数存在するが、影響を受ける範囲は限られることなどがわかってきています。

ビッグデータを使いこなせる人材に期待

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SNSの書き込みから社会全体の意識を読み解く研究など、調査では現れない無意識な本音から社会の理解が進むことを期待しています。
 顧客データの活用事例として知られている、通販サイトのリコメンデーションや、クロスセリング(購入した商品に関連する商品・サービスを勧めること)などは、ともに顧客に合わせて提供する商品をカスタマイズする仕組みです。こうした自動化された仕組みは、一人ひとりに個性化されたマーケティングを実現し、ブランドロイヤルティの
高い顧客を育てるという目的のために、今後も発展していくでしょう。
 しかし、もしビッグデータを広告やマーケティングに生かそうとするならば、データの中から何を抽出し、自社の事業にどう役立てるかという視点が必ず必要になります。ビッグデータの未来に課題があるとすれば、むしろデータ解析のスキルとマーケティングセンスを兼ね備えた人材をいかに確保するかではないでしょうか。『うちの社にもデータが山ほどあるから掘り返せば何かいい情報が出てくるだろう』くらいのレベルで活用しようとすると、ビッグデータは期待外れで終わりかねません。果たして日本の企業にそうした人材を育てる環境があるか、どうか。まずは特定の範囲で小さな発見を積み重ね、細かい顧客アプローチやプロモーションに役立てることで、組織的に売り上げアップやシェア拡大につなげていく地道なステップが重要になると考えています。

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