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租税回避は違法行為ではないが不公平!?

加藤 友佳 加藤 友佳 明治大学 経営学部 准教授

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2016年に、いわゆるパナマ文書が公表され、日本でも、租税回避に関する報道が増えました。一方で、そもそも、租税回避とは節税や脱税とどう違うのか、といったことがあまり正確に認識されていません。それは、日本人の納税感覚が欧米とは異なることも原因のひとつだと言います。

租税コストに敏感な欧米の企業

加藤 友佳 納税は、国民の三大義務のひとつでもあり、それを小学生の頃から教えられてくる私たちは、納税とはだれにとっても当然のことであり、収入に応じて公平に課税されている以上、それに疑問をもつこともなく、税に対して関心をもつ意識も薄いのではないかと思います。

ところが、特に、欧米諸国では税に対する関心が強く、納税に対して、財産を取られるという感覚をもっています。

もちろん、国民の納めた税金によってインフラの整備をはじめ、公共サービスが提供されていることは理解しています。だから、ルールに則って決められた課税額は払いますが、できるだけ低く抑えたいと考えます。

特に、法人税などは企業経営上のコストと捉えられているので、それを低く抑えることは、むしろ、経済合理性からみて経営上の重要な課題となります。そこで、そのための様々なスキームが開発され、それは節税という範疇から、租税回避という形に拡がっていくことになるのです。

ところが、納税は当然の義務という感覚が強いと、租税負担を軽くするためのスキームなどと聞くと、それは脱税のような違法行為と捉えがちです。しかし、租税回避は脱税とは異なりますし、また、節税とも異なるのです。

節税とは、減税を認める法律や制度を利用して納税額を抑えることです。例えば、医療費控除がそうです。それを利用することはまったく問題ありませんし、それによって租税負担を抑えることは国も想定しています。

つまり、そうした制度は、公平な課税という観点から設けられているという趣旨があるからです。

ところが、そうした法律や制度を利用するものの、その趣旨に反するような利用の仕方をして租税負担を軽減させることを、租税回避といいます。

つまり、ルールに則っているという意味では脱税ではないのですが、その法律や制度の想定外の利用の仕方、いわば、濫用する点が問題視されるのです。

例えば、日本に親会社がある企業が海外に子会社を設立した場合、2つの国で課税されることを避けるために、子会社の収益に対しては日本の税制の適用除外基準を設けて、1つの国でのみ税金を納めることが認められたとします。

このようなケースで、法人税の税率が非常に低い国(タックスヘイブン)に名ばかりの子会社を設立し、外国企業との取引に介在したなどとして、その子会社が収益を上げた形にすれば、その分の法人税はその国で納めれば良いことになります。

すると、法人税の税率が高い日本での所得を、税率の低い国に設立した子会社に移転させることによって、企業グループ全体の納税額を抑えることができるわけです。

しかし、こうした租税回避を見過ごすことは、日本の歳入を損ない、また、公平な課税という観点からも問題です。そこで、タックスヘイブンにある子会社の利益を日本の親会社の所得とみなし、日本で課税するタックスヘイブン対策税制制度が1978年に導入されました。

つまり、日本で納める税金を不当に減らす目的で海外に子会社を設立しているような場合は、二重課税を防止するための税制の適用除外基準に相当しないということです。実際、それによって課税処分を受けた企業もあります。

一方で、こうした企業のなかには、海外の子会社は現地でしか行えない事業を行っている、つまり、子会社設立には経済合理性があるとして、タックスヘイブン対策税制が適用されたことを裁判で争っているケースもあります。

実際、企業の事業形態が多様化している現代では、租税回避の意図があったのかをあきらかにすることは、難しくなっているとも言えます。

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