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コロナ・パンデミックの知見は社会にとって貴重な財産になる

盛本 圭一 盛本 圭一 明治大学 政治経済学部 准教授

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新型コロナによるパンデミックでは、過去のパンデミック発生時と現代社会の構造が大きく違うこともあり、経済政策において手探りの判断をせざるをえない状況となりました。将来、このような状況にならないように、この体験をしっかり分析し、活かすことが重要です。

パンデミック対策のモデルがなかった

盛本 圭一 人や社会にとって、大災害といわれるものは度々降りかかります。代表的なものは自然災害や戦争でしょう。

 特に、日本では、近年、地震や台風などによる自然災害が毎年のように起こっています。感染症の大流行であるパンデミックもそうした大災害のひとつです。

 しかし、パンデミックの発生は非常に稀です。そのため、2020年に始まった新型コロナウイルスによるパンデミックによって、私たちは、パンデミックが社会や経済にもたらす弊害について、深く考えてこなかったことに気づかされました。

 一般に、大災害が経済に及ぼす影響としては、生産活動の停滞が挙げられます。代表的には、地震や台風、戦争によって、生産設備のような資本が破壊されてしまうからです。

 一方、パンデミックも、社会全体としては経済の停滞を招きましたが、それは、災害によって資本が破壊されたからではなく、人が自ら、ロックダウンのような形で経済活動を規制したり制限することが大きな要因でした。

 もちろん、それは感染拡大を防止するためで、そのことは、いまもパンデミックの渦中にある私たちは、様々な意見があるにせよ、基本的には理解、合意しています。

 しかし、パンデミックのその特質によって、自然災害時と同じような救済や支援モデルでは対応しきれないことが明らかになりました。

 例えば、経済活動を規制されたセクターは、当然、低迷します。実際、観光や飲食といった対人サービスが基本であるセクターは、壊滅的なダメージを受けました。

 ところが、一方で、マスクや除菌などの衛生製品、トイレットペーパーなどの生活必需品は消費が増大し、生産ラインをフル稼働する状況となったのです。

 また、強制力が働いたこともあり、企業をはじめ、大学などの授業でもテレワークが導入され、一気に普及しました。すなわち、情報技術などのセクターも活況を呈したのです。

 すると、例えば、自然災害などの場合、基本的には、地域の全産業、全住民を対象に支援を考えれば良かったわけですが、パンデミックの場合は、セクターによって格差が生じているため、そうした支援方法は有効ではないことになります。

 ところが、私たちは、パンデミックに対応した経済政策のパッケージをもっていなかったのです。

 結果として、全国民に一律10万円を給付したり、とにかく休業したら補助金を出したり、あるいは、ロックダウンをするのか、その強さはどうするのか、いや、自粛要請にするのか、どのセクターに出すのか、その期間はどれくらいにするのかなど、すべてを手探り状態で進めることになったのです。

 これは、日本に限らず、欧米諸国も同じような状況でした。実際、非常に厳格なロックダウンを実施した国もあれば、日本のような、ある意味、緩いロックダウンや自粛要請を進めた国もありました。

 どれがより効果的な政策だったのか。それは、これから検証をしなければ、確かなことは言えない状況なのです。

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