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マンガによる歌舞伎は、マンガにはない面白さを生み出せるか!?

矢内 賢二 矢内 賢二 明治大学 文学部 教授

進化しながら生き延びてきた歌舞伎

 そもそも、歌舞伎は長い歴史の中で、大きな危難を何度もくぐり抜けたり、観客の好みに応じて自ら変わっていったりする、臨機応変の柔軟さ、ふてぶてしさ、たくましさを発揮してきました。

 「かぶき」の語源である「かぶく」とは、常識的ではない、奇妙な格好や異様な振る舞いをすることです。

 近世初頭に「かぶきおどり」として生まれた初期の歌舞伎は、今日の「伝統芸能」「無形文化財」という静的なイメージとは全く異なり、民衆のエネルギーの爆発を舞台化したような、熱気に満ちた芸能であったと考えられます。

 その後の歌舞伎は、風俗の紊乱、身分をわきまえぬ贅沢などを口実にたびたび幕府の取り締まりを受けながらも、常に進化しながら生き抜いていきます。

 その背景には、歌舞伎があくまでも民衆の人気に支えられたショービジネスであったこと、まただからこそ時代時代の観客の好みに応じてあらゆるものを貪欲に取り込んでいく柔軟さ、悪く言えば「節操のなさ」があったのです。

 そうした精神はある意味では現代にも受け継がれていて、近年の新作歌舞伎の流行はおもしろい現象です。特に、「ワンピース」や「NARUTO」、「風の谷のナウシカ」といったマンガを原作とする歌舞伎による舞台化は、一種のブームといってもいいでしょう。

 実は「伝統芸能に新作は必要か」というのは昔からある難しい議論で、「伝統芸能は古典を継承し、磨き上げることを最優先すべき、新作など必要ない」という人もいれば、「古典も最初は新作だったはずだ、時代に応じた新作はぜひとも必要だ」という人もいます。

 私自身はどちらかというとやや前者寄りの意見で、「惜しいなあ、新作にかけるだけの時間とエネルギーがあるなら、もっと稽古や研究をして、良い古典を見せてほしいのに」と生温かい目で見守っています。

 しかし、「このままでは先細りになる、新しい若いお客さんに注目してもらわなくては」という危機感はよくわかりますし、歌舞伎役者とて表現者でありクリエイターです。「新しい表現を自分の体でゼロから作り上げたい」という情熱や衝動が抑えきれないということもあるのでしょう。

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