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2022.05.18

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない

原発問題とは、エネルギー問題だけを意味しない
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2011年に福島第一原子力発電所事故が起きて以降、様々な人たちがエネルギー問題に関する意見を発信するようになりました。しかし、そうした議論の中から、新たな方向性が生まれてきてはいません。それは、議論が感情的で、深掘りされていないからだという指摘があります。

安全性のみの議論になっている原発問題

勝田 忠広 2011年の福島第一原子力発電所事故は本当に大変な事故で、被災された方々はいまも非常にご苦労されています。

 一方で、この事故は、私たち市民の多くが原発に関心をもつきっかけになりました。

 実は、この事故以前は、社会全体が原発に無関心で、見て見ぬふりをしているような風潮が一般的だったのです。その意味では、多くの人が原発を考えるようになったのは良いことです。

 しかし事故のイメージが強過ぎて、安全性のみを求める議論が極端に進んでいるとも言える状況です。

 もちろん、事故の惨状を知れば、安全を求める感情は当然ですし、それを発信することも決して悪いことではありません。ところが、そうした感情は、安全でさえあれば良い、という意識を生み易くします。

 例えば、原発施設で働く労働者の被曝問題、原発のリスクを担う地方と消費するのみの都会という差別構造、交付金に過度に依存する経済構造、次世代に託す廃棄物処分の世代間差別など、原発が抱える問題は様々あるにもかかわらず、そうした安全に運転するからこそ膨らみ続けてしまう問題が議論されず見えにくくなっている、という状況が生じています。

 要は、感情的に安全のみを考えることは思考停止になりがちで、そのために見失うものがあることを、私たちは、あらためて意識する必要があると思います。

 また最近、私は、第6次エネルギー基本計画を策定した審議会の議事録や国民からのパブリックコメント、完成した報告書についてテキストマイニングによる定量分析を行いました。

 すると、審議会では、原子力発電に関連する用語が、再生可能エネルギーに関する用語の1/2であること。また、福島第一原発事故に関する用語は、原子力発電関連の1/20であり、再生可能エネルギー関連の1/30であることがわかりました。

 一方、パブリックコメントは、福島第一原発事故や核燃料サイクルに関する用語の頻度が、審議会のそれよりも7~8倍多いのです。

 要は、審議会は、原発の本質的な問題に踏み込まないまま、その態度を隠すように再生可能エネルギーの普及について議論する一方、一般市民は、事故や放射性廃棄物を含めた原発の問題を忘れていないということです。

 審議会のメンバーは、それぞれに、業界や立場といった様々なものを背負っています。まず、その観点から発言することは当然でしょう。それは、一般市民の人たちも同じです。

 しかし、多様な価値観をもつ人々による冷静で発展的な「対話」になることがなく、専門家と市民の両者の言いっ放しでこの審議プロセスは終わっています。

 せっかく多角的な意見が集まっているのに、それを公共的な観点から、冷静に科学的に論じる取り組みがなされておらず、そのことによって社会的な混乱が生じているのが、2011年以降、続いている状況なのです。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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