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音楽は多様性があり、柔軟性があり、変化していくからこそ面白い

 実は、武満徹なども西洋音楽に対して違和感を抱くことがありました。例えば、彼は異なる2つのテーマの対立を特徴とする西洋音楽のソナタ形式は、東洋人の感性には合わないと言って、新たなアプローチを模索しています。

 また、映画音楽に取り組む際には、侍のシーンにオーケストラの音は違和感があると、尺八や琵琶などの音を取り入れたりもしています。

 武満以外にも日本の多くの音楽家が同様にこうした試みに取り組んでいます。逆に、フランスのドビュッシーなどは西洋音楽の枠組みから抜け出すことを目指して、日本の音楽やインドネシアの伝統音楽であるガムランなどに注目しています。

 つまり、音楽とは、やはり複数形で、普遍性をもたせることは難しいのかもしれません。逆に、音楽は多様性があり、柔軟性があり、変化していくからこそ面白いとも言えます。

 私自身も作曲を手がけていますが、その活動は旅に似ていると感じています。

 例えば、オーケストラの作曲をしているときは、オーケストラとはどういうものなのか、どういう演奏をしてきた歴史があるのか、そういったことを知ることが大切です。それは、ヴァイオリンのための作曲でも、尺八のための作曲においても同じです。

 それぞれの楽器の世界を知ることが大切であり、必要です。すると、その世界には、文化的な背景があったり、地理的な特徴があったり、時間軸の中で変遷することがあるなど、様々なことがわかってきます。それは、異なった世界を旅することにも似ています。

 また、映画や美術などの創作活動とコラボレーションすることもあります。すると、共同作業の中で、いままで未知だったことを教えてもらうことができます。それも、ひとつの旅のように感じられます。

 そうした旅が私自身の世界を広げ、豊かにしてくれるように思われます。

 今日、これまで音楽の創作に関わったことがない人でも、発達したICTやAI技術のサポートによって、比較的容易に作曲したり、演奏することなどができるようになっています。

 それは、多くの人の音楽に接する機会を増やし、それによってまた、新たな表現が生まれる可能性を高めていると思います。そういった意味では、とても面白い時代になっていると思われます。

 一方で、最新の技術を利用するだけでなく、その音楽がもつ独自の世界を旅することも、また、私たちの世界を広げることに繋がると思います。

 様々な技術が進んでも、音楽に対するそうした接し方も、これからも失われることはないでしょう。音楽が複数形であり続ける限り。


英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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