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農村には「なにか」ある
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>>英語版はこちら(English) 新型コロナウイルスによって都市生活の脆弱性が露わになり、地方や農村を見直す動きが出てきています。しかし、もちろん、農村にも様々な問題があります。それに対して、多角的な視点から診断し、農村の未来をデザインする活動が、本学で行われています。

地域の豊かさをイメージすることで見えてくる未来デザイン

鹿児島県日置市との生ごみリサイクル堆肥化の勉強会の様子
 【鹿児島県日置市との生ごみリサイクル堆肥化の勉強会の様子】

 日本の地方の過疎化や地域産業の衰退は、以前から大きな問題です。限界集落や、消滅可能性自治体ということが注目されたように、多くの農山漁村が危機的な状況にあることは事実です。私もその問題解決にたずさわっていますが、楽観的な予測はまったくしていません。

 では、そうした農村には、本当に魅力がなく、担い手もなく、未来もないのでしょうか。

 農村の主たる産業である一次産業とは、地域の自然に働きかけて恵みを得る営みと捉えられます。ここでいう地域とは、市町村のような行政区ではなく、その土地の自然・生態環境に支えられる自給圏であり、同じ世界観を共有する人々が暮らしている範囲と定義できます。

 実際、日本の農村では、長い間、自然・生態環境と共生して衣食住を自給してきた豊かな歴史と作法があります。その経験が農的な営みの魅力の源泉です。

 地域活性化の方法といえば、例えば、農業と加工業を掛け合わせて6次産業化する取り組みがあります。

 私は、その活動に反対するつもりはありませんが、ある意味、それは農的な営みに市場経済の論理を導入することであり、勝ち負けをつける戦略でもあります。もちろん、全員が勝てるわけではありません。こうした外と勝負する戦略だけでは、豊かな広がりのある農的な営みの本来的な価値や魅力を高めることはできないと考えています。

 農村を活性化させていくには、このように「農業」だけを振興させ、経済的に潤うことを考えるだけでは難しいと思っています。

 むしろ、地域住民が等しく自然の恵みを受けられるような規模のコミュニティにおいて、その恵みを受けるための豊かな生活を包括的に再構築していくことが大切だと考えます。暮らしを守る地域経済、とでも言うべきものです。

 そのためには、農的な営みのうちにある本来の価値や魅力を見つけ、それを大切にしながら、まちづくりやコミュニティづくりを始めることです。

 例えば、水も風も太陽も地熱も、自然エネルギーとして活用する技術があります。地域の自然を様々な形で利用しやすい資源に変換することができます。私たちは、日本の中山間地域にある豊富な水を、地域の中小企業や住民が力を合わせて利用できる小水力発電の技術開発を行ってきました。

 地域にあるそうした資源を様々な視点から点検し、それらを掛け合わせることで、理想の未来農村をイメージし、その未来から逆算して新たな生活をデザインすることも可能です。

 この未来に向けた地域計画論のことを私は「農村資源計画学」と呼んでいます。農村の未来のデザインには、その地域に固有な豊かな生活や生業、死生観が現われると、私は考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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