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横行する個性、求められる社会の構成員としての個人

竹中 克久 竹中 克久 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

個人は社会の構成員である

 なぜ、病院や学校の組織の中でこのような歪な構図が生まれているのか。それを考察する導線として、企業という組織を考えてみたい。組織-サービス受給者の関係は、病院であれば患者であり、学校であれば生徒、企業では顧客である。顧客は「安全」「信頼」といったものを付加サービスと考えないばかりか、たとえば定時に電車が到着することや、食品等の商品においてラベルやパッケージに表示通りのモノが提供されることを当然視し、さらなるサービスの向上を求めている。
 企業側は市場原理が働くために、一層サービスを向上させようとする。このようなサービスの過剰に“慣れた”消費者は、病院や学校など市場原理が馴染まない組織にも同様のサービスを求めるようになった。この市場原理が非営利的組織にも波及していったことが、病院や学校などの組織が変質していった要因の一つと考えられる。
 さらに、個人の発言が歓迎される風潮も影響していると思われる。“個性的”であることが良いとされ、そして個性的であるためには他人とは違う自分を発信しなければならない。自己中心的でも理不尽でも、単なる我儘でもいい、自分の言動が“個性的”とみなされることが重要なのだ。病院や学校で生まれる敵対関係の背景には、発言によって個性的であろうとする脅迫的観念が働いているのではないだろうか。いままさに、個であると同時に、社会の構成員としてその一部を引き受けるという視点・自覚を持つことが求められている。

常識を疑うことから始めよう

 個であると同時に社会の構成員である二面性を備えるために、“常識”とされるものを疑うことから始めるべきである。常識とされるものがなぜそうなったのか、その成立のプロセスを考える作業を無視して「常識だから」と納得するのは極めて危険である。
 たとえば、企業という組織を取り巻く“常識”を見てみよう。就職活動において“自己分析”は当然行う作業であり、“就活の常識”とされている。しかし、そもそも自己(自分)とは自らではわからない対象ではないだろうか。そのわからない自分を論理的に説明できる能力が求められ、それができないのは努力が足りないとされる。あるいは自分なりの目標・夢を持つことは素晴らしいという“常識”があり、それを的確に提示・説明できる人間が評価されるが、果たしてそれほど明確化できるものであろうか。努力すれば報われるという常識も疑わしい。努力しても報われない人の方が大多数のはずだ。それでも、報われなかったのは努力が足りないという“常識”がまかり通る。企業という組織の現実的な一面では、就職が叶わず自殺する学生がおり、就職後も過労死や自殺で命を失う人がいる。企業は殺人組織(兵器)ではないはずだが、現実はかくも苛酷である。そうした組織が唱える“常識”を鵜呑みにしていれば、個人と組織・社会の関係は次第に歪曲していくだろう。

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