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幻想的に光る「夜光雲」が地球温暖化のメカニズムを解く

鈴木 秀彦 鈴木 秀彦 明治大学 理工学部 准教授

超高層大気が冷えることでできる夜光雲

 一般に、私たちが目にする雲は空気中の水蒸気が水滴の群になったものです。それらができるのは、高いものでも高度15kmから20kmくらいのところです。

 一方、オーロラなどの現象が起こる高度85kmの超高層域は、空気は地上に比べて100万分の1くらいになり、ほとんど宇宙と言えるような環境ですが、その希薄な空気でも水分を含んでいます。

 そのため、この超高層大気が非常に冷たくなると、その水分が凍って氷粒となります。それが夜光雲です。すなわち、氷の雲なのです。

 通常の雲は、日が沈むと見えなくなります。高度20km以下にできる雲は、私たちがいる地表と同じように太陽の光が当たらなくなるからです。

 ところが、高度85kmにある夜光雲には、地表に太陽の光が届かなくなっても光が当たるので、夜空にキラキラと光って見えます。そこで、夜光雲という名前がつけられたのです。

 しかし、見ることができるのは北極と南極の近辺で、超高層大気が最も冷たくなる夏の期間だけでした。そのため、日本では一般に知られていなかったのです。

 ところが、2015年に、北海道で初めて夜光雲が撮影されました。さらに、近年はヨーロッパの都市やアメリカの中部、中東の辺りでも見られたという報告が上がるようになってきたのです。

 これは、地球温暖化の影響によるものではないかと考えられ、NASAなどでも、夜光雲を専門に観測する衛星を打ち上げて、観測態勢を強化しています。

 地球温暖化というと、一般には、地球の平均気温が上昇していくことと思われています。確かに、人が生活している圏内では平均気温が上昇しているのですが、超高層大気は逆に寒冷化が進むのです。

 いまでは、地球温暖化の要因は、CO2やメタン、水蒸気など、人為起源による温室効果ガスにある可能性が極めて高いことは、IPCC(気象変動に関する政府間パネル)などでも認められています。

 そのメカニズムは次の通りです。地球は太陽から入ってきた光を吸収することで、地面が暖まります。

 暖かくなった地面は赤外線を放出します。それは、本来、大気圏外まで出て行くものです。

 ところが、太陽から入ってくる光は素通しする温室効果ガスですが、地面から出て行く赤外線は吸収してしまう性質があります。

 すると、吸収した赤外線によって温室効果ガスは暖まり、地面と同じようにエネルギーを放射します。このとき、温室効果ガスは上と下に均等に放射します。

 つまり、地面が放出したエネルギーの半分が戻ってくることになるわけです。このため、私たちが生活する地表付近の平均温度は上がることになるのです。

 一方、高層大気には地面が放出した赤外線のエネルギーはほとんど届かず、しかも増加した温室効果ガスがその場のエネルギーを宇宙空間へ向けて放出し続けるので寒冷化します。

 地表近辺の平均気温の上昇には、他にも様々な要因があるかもしれません。それは、局地的な人為起源によるものもあるはずです。

 しかし、超高層大気にはそうした影響が及ばないので、地球の全体像としての温暖化の進行が映し出されます。

 そのため、超高層大気の観測には大きな意義があり、夜光雲が見られる場所の変化も、地球環境変動の傍証として捉えられるわけです。

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