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令和元年にあらためて思う、日本人は元号が好きだ

加藤 徹 加藤 徹 明治大学 法学部 教授

多様なものを使い分ける日本の暗黙知

 しかし、国民の多くが好き、ということはどういうことでしょう。実は、そこには、私たち自身が気づきにくい暗黙知があると思います。

 言葉や文字、数字、記号で明確な情報として表現できるのは形式知であり、勘とか悟りとかコツとか、口で説明したり文字で記録することができないのが暗黙知です。

 この2つがどう違うのかといえば、例えば、裁判が暗黙知で行われたら大変です。被告人の有罪、無罪が裁判官の勘や経験知で決まるようなことなどがないように、法律という形で条文が作られています。すなわち、形式知に則って裁判は行われます。

 実は、同じことが旧約聖書にもあります。ユダヤ人が食べてはいけないものなどを細かく規定しているのです。それは、中東には宗教の異なる様々な民族がモザイク状にいたからです。だから、ユダヤ人のアイデンティティを守るために、食べてはいけないものを明文化し、形式知にしたのです。

 ところが、日本にはそのような条文はありません。食べ合わせが悪いものなどという伝承や言い伝えがある程度です。それは、日本人にとって経験知のような暗黙知で良かったからです。

 つまり、暗黙知は民族や宗教によっても異なりますが、どの国にも、どの地域にもあります。でも、形式知と異なり、暗黙知は当の人々にとっては空気のようなもので、なかなか気づきません。

 例えば、日本人は、ごはんをよそうのは瀬戸物のごはん茶碗であり、みそ汁をよそうのは木のお椀です。だから、同じ「わん」でも、ごはんは瀬戸物の「碗」で、みそ汁は木の「椀」なのです。

 ところが、中国では、それぞれの料理を盛る器を、白い陶磁器で統一することが美しいと感じます。だから、茶碗とお椀が並ぶ日本の食卓に違和感を感じます。

 さて、それでは、日本人は、なぜ、茶碗とお椀を使い分けているのか、中国人にちゃんと説明できるでしょうか。おそらく、それは、とても難しいと思います。

 文字でも同じようなことがあります。日本語には漢字、ひらがな、カタカナがあり、アルファベットを使うときもあります。文章を書くときは、漢字だらけでも、ひらがなだらけでも読みにくいと感じ、バランス良く混ぜて書きます。すると、読みやすいし、美しいと感じるのです。

 ところが、中国は漢字のみです。中国人が日本の文章を見ると、すごい衝撃を受けます。最近では、混ぜて書かれたものをキュートと感じるようで、国内向けの商品にも、わざとひらがなを混ぜたネーミングがあるようです。

 彼らは明確にキュートさを狙って混ぜて書きますが、日本人は、なぜ混ぜて書くと読みやすくなるのか、漢字だけを使っている中国人にわかるように説明することは、おそらく、できないと思います。このような例は、実は、枚挙にいとまがないのです。

 このように、暗黙知は自分たちにとっては空気のように当たり前で、説明する必要もないものです。総じて、中国の暗黙知にはコモディティ化が見られ、日本は色とりどりをしています。

 おそらく、中国人は自分たちがコモディティ化していることに気づいていないし、それを指摘されても説明できないでしょう。日本人も、多様なものを巧みに使い分けている理由を説明できません。食器を使い分けていることも、文字を使い分けていることも、元号と西暦を使い分けていることも、結局、好きだからということになるのです。

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