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がんの検査だけじゃない! ヒ素を無毒化する線虫にも注目!

新屋 良治 新屋 良治 明治大学 農学部 准教授

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線虫を使って、がん検査を安く、高精度にする技術が大きな話題になっています。線虫とは、一般にはあまり知られていない生き物ですが、様々な能力をもっていることがわかってきており、それが人の役に立つ可能性も高いと言います。本学の研究チームが発見したヒ素耐性をもつ線虫の研究にも、大きな期待が寄せられています。

まだ解明されていない多様性に富んだ線虫の生態

新屋 良治 線虫は、人間と同じく多細胞生物で、無脊椎動物に属します。体は、基本的に筒状で、サイズは、一部に数メートルになるものもいますが、一般的に1ミリ程度です。ほとんどが透明な体なので、肉眼で見ることは難しいと思います。

 線虫の特徴のひとつは個体数が圧倒的に多いことです。例えば、一掴みの土を取り、顕微鏡などで見ると、その中に数千頭の線虫が含まれていることもあります。

 また、水の中、海の中、さらには、永久凍土の中や深海など、いわゆる極限環境からもたくさん発見されています。実は、線虫は地球上で最も個体数の多い動物とも考えられているのです。

 また、種類が多様なことも特徴です。いま知られているだけで2万種ありますが、それは地球上に生息する線虫全体の1%にも満たないと考えられています。

 例えば、線虫と言えば、一般には、アニサキスやギョウ虫、フィラリアなど、寄生虫のイメージがあると思いますが、実は、動物や植物に寄生する種は線虫全体の4分の1くらいです。線虫の75%は自由生活性なのです。

 それらは、微生物や藻を食べたり、なかには線虫を食べる捕食性線虫もいます。土の中に生息するものなどは、物質循環に関与する分解者として機能していると考えられています。線虫は非常に多様性に富んだ生態をもっているのです。

 しかし、線虫の研究分野は比較的歴史が新しく、すべての生態は、まだ、わかっていません。

 逆に言えば、人はこれまで、昆虫や微生物の生態から様々なことを学び、それを応用した技術などを発展させてきましたが、同じように線虫から様々なことを学び、応用していく大きな可能性が秘められているのです。

 その可能性を示すニュースのひとつが、線虫を使ったがんの検査でしょう。これは、線虫ががん細胞の匂いに反応することを応用した技術です。

 実は、線虫は、地球上の生物の進化の過程で言えば、かなり初期段階で現れた原始的な生き物と思われてきました。

 ところが、近年、生物のゲノムなどを調べる分子生物学などの技術が進歩し、それにより、線虫は系統的に比較的昆虫に近いことがわかっています。さらに、線虫は、一般に考えられているほど原始的な生き物ではないのです。

 例えば、線虫には人と同じような神経があり、その神経が集合することで脳の原始的な役割を担う機能もあります。

 実際、線虫は学習ができますし、嗅覚などは非常に優れています。嗅覚受容体遺伝子の数で比べると、犬よりも嗅覚が優れていると言われています。

 なので、がん細胞の匂いに反応する現象も、線虫の特別な能力を知る研究者たちにとってはそれほど大きな驚きではありませんでした。

 さらに、線虫の知られざる能力や機能がさらに解明されていくことに大きな期待があるのです。

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