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中華世界の拡大は、実は、理に適っていた!?

西川 和孝 西川 和孝 明治大学 法学部 准教授

最近、日本と中国の関係が悪くなっています。背景には、中国の、香港の統制強化や、台湾に関する強硬な言動、ロシアのウクライナ侵攻に対する曖昧な態度などがあるからと言われます。しかし、もっと大きいのは、コロナ禍によって直接的な交流ができなくなっていることかもしれません。

石屏の歴史に見る中華世界の拡大

西川 和孝 日本と中国は隣国で古くから交流がありましたが、互いの歴史は大きく異なっていて、当然、そこで培われた価値観や文化は異なる面があります。

 私たちは、その違いを自分たちの価値観や視点だけで捉えるのではなく、相手のことを理解しながら捉えることが、良い関係を築いていく上で重要になります。

 例えば、近年の中国の、海洋進出問題、香港問題、台湾問題、尖閣諸島問題、そして一帯一路政策などの動きを見ていると、それは、中華世界の拡大という、中国が古くから行ってきた国家戦略の一環のように、私たちは捉えがちです。

 しかし、中華世界の拡大の歴史を見ると、それは国家による戦略ばかりではなく、そもそもは、市井の人々が生きていくための個々の工夫の結果であった面もあることがわかります。

 私の研究テーマのひとつは、中国雲南省の石屏県の歴史です。

 地図を見てもらえればわかるように、雲南省は中国の西南端に位置し、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどと接しています。古くから、白族、ハニ族、イ族など、東南アジアやインドにも分布する様々な民族の人たちが暮らしてきた地域です。

 唐代の頃に南詔国、10世紀中ごろには大理国が原住民族によって建国されますが、13世紀中頃、モンゴル帝国の元朝によって滅ぼされます。

 14世紀、元朝を北方に駆逐した明王朝は、原住民族による反乱の鎮圧と治安維持のための経済的負担に耐えかね、要所に軍隊を駐留させることにします。要は、土着して、日頃は農業に従事する屯田制度をとったのです。

 その中で、石屏は狭い盆地でしたが湖が2つあり、農業に適していたために発展していくことになります。

 その過程で、この石屏の漢人たちは、農地に水を引いたり、湖の周辺を埋め立てるなどの土木技術を培っていきます。さらに、狭い土地の生産性を高めるために、麻や綿など、商品作物の栽培技術を高めます。

 しかし、まもなくして石屏における土地利用の効率化も限界に達することとなり、漢人たちは新たな活路を見出すべく周辺地域への行商活動も行うようになっていきます。

 現地の商品作物に加え、彼らが扱う日常の生活用品なども商品になりました。特に、鉄で作られた針は原住民にとっては貴重で、相当なものと交換できたようです。

 こうして、屯田兵として派遣された漢人たちは、自分たちが生きていくために様々な技術や工夫を重ねたことで、それを欲したり必要とする原住民との間で交流が始まり、徐々に現地にとけ込んでいったのです。

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