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メディア・リテラシーの有無が生死を分けることもある

明治大学 国際日本学部 准教授 酒井 信

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メディア・リテラシーというと、情報の真偽を見分ける能力であると思われがちです。しかし、現代社会では、情報の真偽を見分けるだけでは十分とはいえません。では、大量の情報に対して、私たちはどのように接し、読み解けば良いのでしょう。

ダイアモンド・プリンセス号の報道に見る異常事態の捉え方

酒井 信 現代社会では、様々なメディアを通して、実に様々な情報が発信されています。情報の質は玉石混交の状態にありますので、公共性が高く、複数のファクト・チェックが入った情報を取捨選択して読み解く能力が問われるようになっています。特に私たちの将来を左右する問題については、情報の背後にある意図やバイアスを評価して、読み解くことが必要です。

 例えば、世界中で共通して、選挙期間になると、立候補者にとって不都合な情報がWeb上に出回ることがあります。もちろん情報の正確性を吟味することが大事ですが、その情報自体が事実であっても、なぜそれが選挙期間に配信されたのか、背後に何らかの意図がないか考える必要があります。

 また不正確な情報に限らず、偏った情報を繰り返し配信することで、一定方向に世論を誘導するバイアスが生じることもあります。例えば、2016年のアメリカ大統領選挙時には「ローマ法王がトランプ支持を公式に表明」、「クリントンはISに武器を売った」などのフェイク・ニュースがWeb上で大量に拡散されています。

 玉石混交の情報があふれる現代では、公共性が相対的に高いメディアを選び、多様な情報に触れることで、自分が信じている情報を相対化することが重要なのです。そのためには、海外のメディアや国連等の国際機関が発信する情報を含め、複数の情報源を比較分析しながら、いま日本や世界で起こっていることへの理解を深めることが必要です。

 2020年、新型コロナ・ウイルスが蔓延していますが、メディア・リテラシーが問われるようないくつかの事例を見ることができます。

 例えば、2020年の2月に、新型コロナ・ウイルスの患者の隔離問題が取りざたされたクルーズ船・ダイアモンド・プリンセス号のニュースについて、海外のメディア報道を追っていると、乗客を下船させないことが「非人道的」と強く批判されていたことがわかります。特にニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどアメリカのメディアが、この問題について大きく報道していました。

 確かに船内には新型ウイルスの感染拡大が進行しており、そこに閉じ込められた人たちのストレスを考えると、この当時としては、これらの報道は正しいように見えました。

 しかし、この報道の後の新型コロナ・ウイルスをめぐる社会状況の変化を考えると、これらの報道は違った側面を持ちます。

 つまり、2020年2月の時点で中国本土を中心に蔓延していた新型コロナ・ウイルスについて、当時のニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは対岸の火事のように捉え、新型コロナ・ウイルスの危険性よりも、「基本的人権の侵害だ」と、平時の民主主義的な価値観を重視して報道をしていた、ということです。

 このような国際的なメディアの批判を受けて、当時の日本政府が乗客を自由に下船させることができたかと言えば、おそらく難しかったでしょう。当時の新型コロナ・ウイルスに対する日本政府や医療機関の準備状況は、下船した乗客たちを一定期間隔離する施設すら充分に整えられていないというものでした。

 その後3月に入ると、アメリカでも新型コロナ・ウイルスが流行しはじめます。3月4日に姉妹船のグランド・プリンセス号に乗った男性が、同ウイルスで感染死したことが明らかになり、その後、乗客乗員21人の感染が確認されると、グランド・プリンセス号はサンフランシスコ沖に停泊をさせられます。この事件をきっかけとして、ダイアモンド・プリンセス号の「人権問題」はいつの間にか吹き飛んでしまいます。

 グランド・プリンセス号に対しては、感染の有無を調べる検査キットもヘリコプターで投下される徹底した「隔離」が行われました。10日に旅客船がカリフォルニア州オークランドに接岸した後も、乗客たちは米軍施設等で2週間にわたり隔離されています。

 この事件を通して、短期間の間に、アメリカのメディアや世論は新型コロナ・ウイルスへの対応の難しさを実感し、方向転換したのです。

 パンデミックのような異常事態について、当事者の人々に身近であるかどうか(近接性の度合い)によって、類似した出来事でもメディア報道の論調やニュース価値、世論が大きく異なったものになることがわかります。

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