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すべての子どもに、たくさんのキャンプを体験してほしい

吉松 梓 吉松 梓 明治大学 経営学部 准教授

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近年、キャンプがブームと言われています。その背景には、家族や仲間で行くレジャー型のキャンプだけでなく、ソロ・キャンプや、より原始的な環境を楽しむキャンプなど、キャンプが多様化していることがあります。さらに、キャンプの教育的側面も研究が進んでいると言います。

組織キャンプの3つの効果

吉松 梓 キャンプというと、家族や仲間で楽しむレジャー型、レクリエーション型のキャンプをイメージする人が多いと思いますが、一方で、キャンプは教育の一環として発展してきた歴史があります。

 実際、自然環境の下で過ごしたり活動することは、楽しさやリフレッシュすることだけでなく、学校の教室では学べないこと、体験できないことが可能になります。

 そうしたことを主目的とする、いわゆる教育キャンプはアメリカを中心に発展しました。それは、明確な目的や意図をもち、そのためのプログラムが組まれ、スタッフや指導者によって計画的に運営されることから、組織キャンプとも呼ばれます。

 日本では、ボーイスカウトやYMCAなどの団体によって、社会教育の一環として始まります。

 また、学校教育においては、林間学校や臨海学校などは古くから始まっており、こうした自然体験教室も今日の組織キャンプの考え方に通じるものがあります。

 その意味では、日本では、社会教育と学校教育の両輪で組織キャンプが発展してきたと言えます。

 近年では、キャンプの研究が進み、キャンプによる心理社会的効果が実証されるようになっています。それは、主に、「自己」、「他者」、「自然」の3つの側面に集約されます。

 自己の側面とは、自己効力感や自尊感情、メンタルヘルスの向上です。

 電化製品に囲まれた現代生活に対して、自分が主体的に関わらなければ食事もできない、ある意味、不便な生活をやりきること。しかも、やってみると意外と楽しいことを体験すると、自分でもできるという自己評価や自信が高まり、それは、ポジティブな心の変化を生むことがわかってきました。

 他者の側面とは、対人関係やコミュニケーション力の向上です。

 キャンプでの活動を小グループ単位で行うことで、野外炊飯にしても、登山などのプログラムにしても、グループの仲間で協力し合います。すると、コミュニケーション力や、他者との関係性が深まり、新しい人間関係が生まれることもわかりました。

 こうした他者との協働が達成感に繋がることを知ることは、大きな経験になります。

 自然の側面とは、環境を、まさに身をもって知ることです。

 近年のSDGs教育などによって環境に関する知識が豊富になっている一方で、それが知識にとどまり、自分ごとになっていない面があります。しかし、自然体験活動は、実際の自然の素晴らしさを知り、感動を体験し、自然への親しみの感情を育みます。

 それは、人の活動が自然環境に負荷をかけていることを、実際の問題として知ることに繋がっていくと考えられます。

 組織キャンプでは、こうした調査結果をより効果的なプログラムの実施に向けてフィードバックしています。

 それは、不登校や障がいのある子どもたちにとっても、いまの状況を変えたいとか、より良くしたいと思うときにも、そのサポートとなることがわかってきています。

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