その企業が存在する意味を表すパーパス
パーパスという考え方を日本語で適切に表す統一的な見解は、実は、まだ確立されていません。「存続目的」という言い方が一番近いかもしれません。
つまり、自分たちは、どういう目的で企業として存在しているのかを明らかにし、その目的を実現するための企業活動を続ける、という意味です。
例えば、アメリカ発祥のアウトドアメーカーでグローバルな展開をしている企業は、自分たちはアウトドア製品を売ることが目的で存在しているのではない、と言います。
その企業は、地球を救うことが自分たちの目的であり、その一環として、良質なアウトドア製品を提供している、と言います。
また、静岡県でハンバーグ・レストランを経営する企業があります。その社長は、自分たちはハンバーグを売ることを目的としているのではない、と言います。
リストア、すなわち、人々の疲れた身体を癒やし回復させること、疲れやストレスから解放することを目的とし、そのためにハンバーグを提供している、と言います。このレストランは大人気で、いま、静岡県内で30店舗以上を展開する企業になっています。
実は、こうした企業はとても多くなっています。ポイントは、自分たちは社会に対してなにをしたいのか、というパーパスがまずあり、そのための手段として製品やサービスの提供がある、ということです。
すなわち、従来のCSRのように、本業で得た儲けを社会貢献に回す、というのではなく、本業そのものがCSRである、ということです。
当然、本業が不調になれば社会貢献から手を引く、というのではなく、社会貢献をし続けることが本業を伸ばすことになるわけです。
それは、収益を上げるための方便という見方もあるかもしれません。
しかし、例えば、社長やCEOなどのトップがしっかりとしたパーパスを立て、その思いや本心をステークホルダーや社会に発信すると、そうではない企業との間に明らかに差が生まれるのです。
まず、従業員が変わります。ハンバーグを売って儲けようという企業と、リストアを提供しようという企業の店員では、顧客に対する接し方が違ってきます。また、それは店員に限りません。
あらゆる部署の従業員にとっても社会的意義をもって働くこと、アイデンティティをもって働くことで、モチベーションやロイヤルティが高まります。それは顧客にも伝わり、人気に繋がっていくのです。
これは、あらゆる業種で起こることであり、実際、同じブランドの商品をいつも買っているとか、買うと決めているという消費者が形成されたり、さらに、フリークと言われるような熱狂的なファンを形成することもあります。
また、コロナのパンデミックによる経済活動の停滞によって、投資家たちの間では株式を売却して現金化する動きが起きましたが、明確なパーパスを発信している企業の株は売られにくく、株価は安定し、むしろ、右肩上がりを見せるデータも出ています。
つまり、しっかりとしたパーパスを発信する企業は、それが共感されることで、ステークホルダーたちの間に信頼を生むのです。
見せかけのパーパスを方便にするような、パーパス・ウォッシュと言われる企業は、逆に、ステークホルダーの信頼を大きく損ないます。VUCAの時代にあって、それは致命的と言えます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。