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プロ野球の熱狂は人になにをもたらすのか

水野 誠 水野 誠 明治大学 商学部 教授

人は帰属する内集団を求めている?

 最近、新たに『プロ野球「熱狂」のメカニズム』という本を出版しました。そこでは、計算社会科学といわれる手法を取り入れて、ファンの発信するソーシャルメディア上のビッグデータを分析しています。

 例えば、ツイッターを見ると、試合中にホームランが出たり、エラーで失点するなどが起こると、ツイートやリツイートの量が一気に増えます。

 また、試合後も続くツイートは、その日の試合内容によって、量も表現も変わってきます。それら毎日のツイートを集計すると、膨大なビッグデータになるのです。

 そこで使われる単語から、例えば、ポジティブ感情とネガティブ感情を分析していくと、どこのファン(内集団)はどういったときに、どんな熱狂を、どんな熱量で生み出しているのかが捉えられます。

 例えば、多くのプロ野球ファンは、応援チームの貯金次第でツイートがポジティブになったり、ネガティブになったりします。しかし、阪神ファンの場合あまりそういうことはなく、他のファンとは違う独特の心理があるようです。

 そこには、阪神が基盤を置く関西という地域が負ってきた歴史が影響しているのかもしれません。プロ野球チームのファンダムという内集団が、反中央のシンボルになることで、熱狂がブレずに持続する理由になっているとも考えられます。

 また、広島ファンも、地域や球団が負ってきた歴史を意識していることがわかっています。コロナ禍で球団経営が厳しいいま、戦後復興期に球団を救うために行った樽募金を再び行おうとする意見が出てきたりするのは、そうした歴史意識の現れといえるでしょう。

 集団が苦境にあるとき、自分たちが手を差し伸べて助けたというストーリーは、内集団をより強固にする伝説のように作用するのかもしれません。

 古い時代では、人は生まれた地域のコミュニティに自動的に帰属し、それが、そのまま内集団になっていたと思います。

 しかし、現代では、特に、東京などの都市圏では地域コミュニティの影響力は小さくなっています。むしろ、人は、帰属する内集団を選択するようになったといえそうです。

 ということは、特定の内集団に帰属しないことも可能ということになります。しかし、現代人であっても心に根底には、何らかの内集団に帰属していたいという欲求があり、様々な理由から何らかの内集団を選択しているのかもしれません、

 プロ野球のファンに、なぜ、特定のチームのファンになったのかを問うと、その理由は様々です。もちろん、生まれた場所、あるいは家族が熱心に応援していたのでいつの間にか、という答えがかなりあります。

 一方で、たまたま人に誘われて観戦したとき、熱狂的な応援に感動してファンになったという答えもあります。いずれもファンダムの熱狂がその人を巻き込み、内集団への帰属を促したことになります。

 ただし、どこかの球団のファンになったからといって、多くの人にとって、具体的なメリットが生じるわけではありません。むしろ、支出が増えたり、時間をとられたり、気苦労が増えてデメリットのほうが多いぐらいです。

 それでも、多くの人がファンであることをやめないのは、なぜでしょうか。私たちは、まだ、その答えに至っていません。

 皆さんも、プロスポーツに限らず、様々な分野でファンになっているものもあると思います。なぜ、自分はそのファンになり、ときには熱狂を体験しているのか、考えてみてください。意外と、人の本質や社会の本質に迫ることができるかもしれません。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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