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閃きだけに頼らない創造は、数理のチカラが支援する

福地 健太郎 福地 健太郎 明治大学 総合数理学部 准教授

閃きだけに頼らない創造は、数理のチカラが支援する

インタフェースの新しい役割

 人間の意思をどのように機械に伝えるかを仲介するのがインタフェースの役割である。ハードウェアとソフトウェアの発達があいまって、さまざまなインタフェースが競うように開発されている。そこで、以前は人間の意思を確実に機械に伝えるためだけのものであったものを、エンタテインメント性を重視しながら、「魅せる」インタフェースを開発してみようと思うようになった。今ではスマートフォンの普及に見るように、いつでもどこもでコンピュータの力を引き出して使えるようになってきた。それに伴って、インタフェースに期待される役割も、利便性だけでなく、使って楽しく、そこに魅力を感じるようなものが求められてきている。

インタラクティブ映像が人の表現力を引き出す

 かつて舞台の演出にコンピュータ制御の映像を使う活動をしていた際に、ビデオカメラが捉えた役者の動きに合わせてリアルタイムに映像が変化するような仕掛けを開発した。それが舞台上で役者の生の動きを引き出すのを見て、舞台だけではなく、街や広場でも同じことができるのではと考えた。そこでその舞台用のシステムを、誰でも参加できるものに作り変え、ビデオカメラを人々に向けてみた。すると道往く人が、自分の動きに応じて変化するコンピュータグラフィクスに目をとめ始めた。大人も子供も、自分の姿から炎がたちのぼり、身体を動かすとそこから光を発することを発見するや、競って身体を大きく動かし、映像を見せ合っていた。そこには、舞台の上の役者と同じように、人を楽しませようとする表現者たちがいた。

インタラクティブなインタフェースの可能性

 映像システムの仕組みじたいは難しいものではない。高速なコンピュータグラフィクス技術と、身体の動きを検出する技術を組み合わせ、動きに応じた映像を即座にディスプレイに表示しているに過ぎない。しかしそのリアルタイム性がさまざまな可能性を切り拓いた。最近は街中でコンピュータディスプレイに電子広告が表示される「ディジタル・サイネージ」が珍しくなくなってきているが、チラと目をやる人はいても、その前で立ち止まってじっくりと眺める人は少ない。しかしこのシステムを応用した広告を設置したところ、多くの通行人が足を止め、リアルタイムの映像効果に興じる姿が観察された。とくに音楽フェスティバルのような大勢の人が集まる場所では人々の表現意欲をかきたてるらしく、いつまでも踊り続ける姿が見られた。
 この仕組みを広く共有したいとの思いから、システムを「EffecTV」と名づけ、オープンソースのソフトウェアとして世界中に公開した。すると、ダンスパフォーマンスやコンサートの背景映像に応用されたり、野外での観客参加型のアトラクションに使われたりするなど、世界中で改造され、他の作品に組み込まれて発展していった。表現のためのソフトウェアを、誰もが中身を自由に改造できるようにすることで、新しい表現へと連鎖していくことをこのとき知った。

創造を支援する数理

 ひとたび完成させれば後は同じ形を保ち続け鑑賞される作品と違い、インタラクティブ作品は常にそれを体験する人が作品に干渉し続ける。人は製作者が思いもよらなかったやり方で作品に働きかけようとする。作品を提供する側の想像力を超えて、作品はその瞬間に初めて形作られる。そうした二人三脚の創造を支えるためには、瞬発的で予測不可能な人の発想にくらいついていけるインタラクションを確実に動かし続ける必要がある。そのためには、数理的な分析と仕組みの構築が不可欠だ。
 自分の解明した法則が、そこから生み出された仕組が、世界中の表現者の想像力をかきたて、表現へと突き動かしていく。これこそが、インタラクション技術とエンタテインメントの両方にまたがって研究することの醍醐味だ。なにかを生み出したい、生み出す人を支援したい、そんな思いが、観察と分析、そして数理と結びついたとき、それは形となる。そのとき貴方は消費者から創造者へと足を踏み出すことになるだろう。

掲載内容は2013年11月時点の情報です。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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